夜半の美術館
和よらぎ ゆらね
夜半の美術館
夜半の美術館
目が覚めた
時計の針は午前零時を過ぎたばかり 夢の名残を振りほどくように私は静かに布団を抜け出した
そっとサンダルを履いて外に出る 風はやわらかく夏の終わりの匂いがした
足は家から少し歩いたところにある小さな入り江へと向いている
観光客の姿も消え、ただ波だけが昔から変わらぬリズムで砂を撫でている
その瞬間だった
ふと目の前に広がる景色が絵画のように見えた
月が、そこにいた
真珠のように丸く静かに空に浮かぶ その光を受けて海がゆらゆらと揺れる
光と影が溶け合いながら無数のきらめきを描き出していた
満ちては引く波は静かな筆のように砂を描く
遠くに瞬く漁船の灯りは点描画のように夜を彩る
そして風の音はどこまでも優しい音楽
海に向かって並んだ岩のひとつに腰を下ろし
私はただその展示を眺めていた
名前も値札も説明書きもないその展示を
やがて雲がひとすじ月を横切った 光が一瞬やわらかくぼやける
それさえもひとつの作品のようだった
立ち上がって私はもう一度夜の海を見渡した
そして心の中でそっと額縁をつけてみる
2025年7月6日0時49分
夜半の美術館にまたひとつ、作品が増えた
夜半の美術館 和よらぎ ゆらね @yurayurane
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