永遠の牢獄

岸亜里沙

永遠の牢獄

20XX年の秋頃、東京拘置所に収監されていた死刑囚が、独居房内で自身のシャツを使って首を吊り、自殺するという事件が発生した。

看守が巡回を怠った職務怠慢かと思われたこの事件には、意外な真相が隠されていた。

以下に記すのは警官と、第一発見者の看守のやり取りである。



「あなたが独居房内の異変に気づいたのは、何時いつの事ですか?」

警官は第一発見者の看守にたずねる。

「19時03分です」

看守は表情を変えず答える。

「変ですね。警察と消防への通報は19時27分となっていますが、通報までの24分間、何をされていたのでしょう?」

警官は眉間に皺を寄せた。

「何もしておりません」

看守は淡々と話す。

「何もしていない?通報も救命処置もしなかったというわけですか?」

「そうです」

「なぜ何もしなかったのです?」

「彼は死刑囚です。彼は自ら命を絶ち、罪を償ったのです」

「だからといって自殺という形で、罪を償うという事は認められていません。しっかりと刑が執行され、初めて償いとなるんです」

「ひとつお聞きしたい。彼を死刑にするために救命するのですか?それは矛盾では?」

看守の言葉に警官は、数十秒黙る。

そして慎重に、言葉を選ぶように話し出した。

「死刑囚にも人権はある。刑が執行されるまでは、その人権が尊重される」

「もし彼の人権を尊重するのなら、この自殺は認めるべきです。彼は、刑の執行に毎日怯えながら、そうやって生きるのが辛くなったのでしょう。彼は罪を犯した事を悔いていた。反省もし、謝罪もしてきた。だからこそ私は彼が首を吊っているのを見つけた時、このまま死なせてやろうと思いました。刑事さん、どんな凶悪な死刑囚であれ、人間です。毎日のように接していれば、どうしても情はわきますよ」

看守が語ると、先程よりも長い沈黙が訪れた。

その後、警官はゆっくりと口を開く。

「あなたの気持ちは理解出来る。しかし、今回の件は道義的に許されても、法律的には許されない。あなたを業務上過失致死で送検するしかない」

「分かっています」

看守はまっすぐ警官の顔を見て答えた。


以上が事件の顛末です。


事件後、この看守を讃える者と、法律遵守を謳う者とで論争が起きた。

しかしこの論争は、未だに活発な議論がされ、賛否両論、様々な意見が飛び交っているのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永遠の牢獄 岸亜里沙 @kishiarisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説