イヤミなクラスメート③


「かわいげって何!? たしかに私にそんなものあるとは思わないけど、なんでアイツに言われなきゃならないの!?」


 肩を怒らせて、思わず大きな声が出る。

 だいたい、人のこと言えないでしょうが、アイツは!


「むしろ音成の方が態度悪くてかわいげないでしょ!? あんなんだから友だちもいないんだよ!」


 鼻息をあらくして一気に文句をさけんだ私に、同意してくれると思った春ちゃんは「うーん」と首を傾げながら話し始めた。


「でも、音成くん女子の人気は高いよね?」

「え!?」


 あんなイヤミで、目つきも態度も悪いのに!?


「だって、メチャクチャ顔いいでしょう?」

「……それは、まあ」


 人気があるって言葉を否定したい気持ちもあるけれど、顔がいいって言葉は否定できない。

 目つきは悪いけど、肌が白くて顔のつくりもととのっているとは思う。

 ブアイソウな顔も見ようによってはクールって思えなくもない。

 モデルとかやっていてもおかしくないくらいには、顔立ちが整っていることは確かだった。


「茶色い目も愛嬌あいきょうあるよねって言ってる子いたよ? ……ただ、やっぱりちょっとこわいしヘンなウワサがあるからお近づきにはなりたくないって」

「ん? ヘンなウワサ?」


 こわいのは普段の態度を見ていればわかるんだけど、ヘンなウワサってのはなんなんだろう?

 まさか、不良っぽい見た目くらいにしか思っていなかったけれど、本当にそういう人たちとつきあいがあるとか?

 そうだったらさっきみたいにつっかかるのはマズイかな?

 なんていまさらながらちょっと後悔していたんだけど、春ちゃんが話した内容は全くちがうものだった。


「うん。ひと気のないところでヒソヒソ一人でしゃべっててこわいとか」

「へ? 一人でしゃべって?」


 不良っぽくてこわい、っていうのとは種類が違うみたい。


「なにそれ、幽霊でも見えてるとか?」

「や、やめてよー。そういうホラーわたしニガテなんだからぁ」


 半分冗談で言ったことだけれど、春ちゃんはちょっと涙目になる。

 思った以上に怖がらせちゃったみたいだから、私は「ごめんごめん」と手を合わせて謝った。そしてそのまま話しをまとめる。


「なんにせよ、こわくて関わり合いたくないって思ってる子の方が多いってことだよね」


 顔が良くて女子の人気はあっても、結局はこわいって結論になるんだなって思って言ったけれど、春ちゃんとは別の方から反論するような声が聞こえてきた。


「律くんはこわくないよ~?」

「あ、雪くん」


 話しかけてきたのは同じクラスの杉浦福雪すぎうらふくゆきくん。

 春ちゃんとは双子の姉弟なんだ。

 でも雪くんは糸目でぽっちゃりな体型で、双子でも春ちゃんと顔はまったく似ていない。

 でも仲は良いし、フワフワのほほんとしてる雰囲気は同じで二人とも癒し系なんだよね。

 フワフワしていて大福みたいにぽっちゃりしているから、昔からある有名なアイスを連想しちゃう。

 そんな雪くんはほっこりする癒し系の笑顔で春ちゃんと同じようにゆっくりと話した。


「律くん、見た目はこわいけど優しいよ? この間体育のマラソンのときも、周回遅れでへばってたぼくに水持ってきてくれたし」

「え? そうなの?」


 ちょっと信じられなくて聞き返す。

 でも雪くんの口から出てくるのは他にも音成が優しいって話ばかりだ。

 図書館で高いところにある本を取ってくれたり、消しゴム無くして困っていたら貸してくれたり、とか。

 ふーん、ちょっと意外。


「髪の色も染めてるんじゃなくて地毛らしいしね~」

「そうなの!?」

「へえーそうなんだー?」


 おどろく私とは対照的に、のほほんと返す春ちゃん。


「福雪よく知るってるねー?」

「律くんが教えてくれたからね~」


 ゆっくり会話する二人を見ていると、なんだかそれだけで力が抜けていく感じがする。

 二人ののほほんパワーにつられてほのぼのしていた私は、いつの間にか音成への怒りなんてすっかり忘れてしまっていた。

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