イヤミなクラスメート②
風は肌寒いけれど、日差しが早くも強くなってきた午前八時ころ。
「
「あ、奏華ちゃん。おはようー」
ふんわりした笑顔であいさつを返してくれたのは
左サイドの髪を可愛い花飾りのついたゴムで結っている春ちゃんは、少しゆっくりめに話すからのほほんとしている感じ。
のほほんとしていて優しい女の子だから、私はいつも癒されてるんだよね。
「奏華ちゃん、昨日出された宿題やった?」
「ああ、将来の夢についての作文?」
昨日の先生の言葉を思い出しながら答える。
「いい作文は夏休み中に清書して作文コンクールに出すとか言ってたっけ?」
「うん。コンクールは別にどうでもいいんだけど、なんて書こうかな? わたしはお父さんの跡を継ぎたいけど……でも望まれてないからなぁ」
こまったなぁ、って春ちゃんの眉が下がる。
春ちゃんのお父さんは杉浦不動産っていうかなり大きな不動産会社を経営してるんだって。
小さいころからお父さんの仕事を見て憧れているらしいんだけど、春ちゃんのお父さんはちょっと古い考えの人みたい。
後継ぎは男じゃないとダメだって言って、春ちゃんの双子の弟に継がせるつもりなんだとか。
「作文の宿題だし、書いてもいい気がするけど……でもお父さんに見られたら面倒なことになりそうだしなぁ」
うーんってうなった春ちゃんだけど、「ま、あとで考えよう」とすぐに切り替えて笑顔で私を見た。
「奏華ちゃんは将来なりたいものってあるの?」
「あ、私は……」
無邪気に聞いて来る春ちゃんの言葉に、胸に重たい石が乗ったような気分になる。
将来の夢は……あった、けれど……。
「私は……将来の夢は、ないかな」
胸の中に広がりそうな苦しさを押し込めて、私は笑顔を作って首を横に振った。
春ちゃんは私の変化に気づかず「そうなんだぁ」ってまた宿題について悩みだす。
気づかれなくて良かったってホッとしていたら、教室のドアがガラッと開いた。
なにげなく視線を向けて、思わず「げ」って声を上げそうになる。
入って来たのは目つきの悪い金髪男子・音成律。
いつもツンツンしていて、するどい目はまわりをにらんでいるようにしか見えない。
明るい髪色と目つきの悪さで不良っぽいイメージがあるから、みんなからこわがられているクラスメートなんだ。
しかもコイツ、なぜか私に対してとくに態度が悪い。
「……どけよ。通れねぇだろ?」
教室の中をすすんできた音成は、彼の机までの間にいた私をにらんだ。
音成は背が高いから、見下ろされるみたいになってさすがにちょっとこわい。
「あ、ごめん」
私は素直に謝って音成が通れるようによけた。
こわいからっていうのもあったけれど、純粋に通せんぼして悪かったなって思って。
なのに、音成は通りながらイヤそうな顔をしてため息をつく。
「ったく……ほんとジャマ」
は? なにそれムカつくんだけど!?
あまりの言いように、私は一気に頭に血が上った。
「なにその言い方。あやまったでしょう? そこまで言わなくてもいいんじゃない?」
にらまれてこわいって気持ちよりも、腹立たしいって気持ちの方が大きくなってつい言い返しちゃった。
音成は自分の机の上にカバンを置くと、ムッとしている私にうんざりしたようなため息をつく。
「水谷……お前、かわいげってやつまったくないよな」
「は?」
かわいげ?
どういうこと? って聞きたかったけれど、音成はすぐに自分の席からはなれて教室の後ろのドアから出て行っちゃった。
音成がいなくなってから、私はなんだか言い逃げされた気分になってまたべつの怒りがわいて来た。
「な……なによアイツー!」
「まあまあ、落ち着いて奏華ちゃん」
一部始終を近くで見ていた春ちゃんは、私の怒りをしずめようと背中をポンポンたたいてくれる。
けれど、ぜんぜん落ち着けないよ!
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