02 結城さんを罰ゲームで偽告白してきたから振ったけど、何故かそれ以来塩対応が継続中



 次の日のお昼。教室だとまた結城さんに何癖つけられるのが嫌だったから先読みして屋上へ。

 だが、生憎今日は天気がいいので千客万来。設置してあるベンチに空きはなく、ぼっち飯を満喫するにはいささか窮屈で居心地が悪かった。

 

 そんなとき——


「なんで佐竹がここにいるの?」

「げ……結城さん」

「げって何よ? 失礼じゃない?」

「あはは、ごめん。今日は快晴だから屋上で食べようかと……でもモロ混みだから途方に暮れていたんだ」


 また絡まれそうだったので嫌がっているのをおくびにも出さず、結城さんへコンビニで買った弁当を披露。


「あんたぼっちなんだから食べるのなんて何処でもいいでしょ? 人気のないところで目立たずコケみたくおとなしくしていればいいわ」

「うん。そうだね」


 結城さん達クラスのカースト最上位四人組は大きめのレジャーシート敷いて陣取っていた。お陰様で屋上は満員御礼、俺が食べるスペースがない。

 

「はぁ……あんたの鬱陶しいツラを間近で観察したらお弁当が不味くなった。今日は厄日ね」

「なんかごめん」


 相変わらず結城さんはツンツンだ。元々クールキャラだが他のクラスメイトへはここまで明け透けに告げない。

 俺が過去に何かしたのか? でも皆目見当がつかないな。


「屋上で食べているんだから来ないでよ。上位カースト媚び童貞陰キャラがいるだけで空気とお弁当がマズくなる」

「そんなごむたいな。これでも気を使っ……」

「………………ふん」


 言いかけるも飲み込んだ。心中は承諾してない。でもこうしないと収拾がつかないだろう。

 下手したら学年のリア充全て敵に回す。それだけは避けたい。


 それにしても結城さんは大食漢なのだろうか、スタイルに似合わずいつもお弁当を二つ持ち歩いている。育ち盛りだもんな。


 陰キャラとしては美少女に罵倒されるのはご褒美でしかないのだが、こう毎回毎回だとさすがに気が滅入ってくる。

 でもいつからこうなったんだろうか?


 確か一年前にはっきりと僕のことが嫌いだと宣言された時のことだ。あそこから結城さんの様子がおかしくなった。


 ◆


 ——あれは一年前の六月。


「やっと来た。遅いよメガネ君」

「ごめん。それで、結城さん何か用かな?」


 結城さんはいつになったらクラスメイトの名前覚えてくれるのやら。まぁ、それより、こんな人気のない校舎裏へ呼び出して何の用なんだろう? 

 

「大したことじゃないよ」

「ごめん、残念ながらお小遣いもうないからカンパは無理だよ」

「誰がカツアゲするかっての。友達と競争していたんだけど、負けたからクラスで一番嫌いな奴に告白する罰ゲームをすることになってさ」

「え?」


 思わず聞き返す。面と向かって美少女に嫌いなどと宣言されてショックを受けない高校男子はいない。


「悪いけど、今から告白するから断ってくれない?」

「ははは……結城さんは俺が嫌いなのか……分かったよ」


 昔から性格が合わないけど、これはないよね。笑ってごまかすも流石に項垂れる。


「陰キャラメガネ君、多分あんたの事が好きだから仕方ないけど付き合ってあげる」

「ごめんなさい。俺好きな人いるのでお断りします」

「………………誰?………………なんでもないわよ」

「結城さん以外の誰かだよ。なんてね」


 勿論嘘だ。こんなのただの負け惜しみ。嫌い宣言された上にくだらない遊びに付き合わされているのだ。

 このぐらいのアドリブ許されるだろう。

 ちょっと気になったのは、このあと何を言っても結城さんはフィギュアのように動かなくなったことだけ。


 結城さんが以前より当たりがきつくなったのはこの辺からだ。嫌味は鋭利な刃物の如く、会いたくないのにエンカント率もあがり今に至る。

 幾ら事のあら回しを整理してもどうしてこうなったのか未だに皆目検討がつかない。



「——ってことがあって悩んでいるんだ」

『むかー! そんな陰湿生意気女はワンパンだにゃー。ワンパン! ワンパン!』


 日曜日の屋外ステージ裏でジャブをする当園メインマスコットキャラクター。

 相変わらずこのどら猫は目つきが悪い。


「いやいや、そんなことしたら学園の男子全員敵に回すって。だから俺は放っておいてほしいんだけど、何が気に食わないのやら……」

『うにゅー、意外と仲良くしたいのかもしれないにゃー。超大好きかもよ?』


 俺は結城さんのことで思い悩んでいると、世話焼き好きのにゃん太郎が心配して相談に乗ってくれる。第三者だし多分中の人は人生経験豊富なおっちゃんだから話しやすい。


「それはないない。俺みたいな陰キャラと仲良くしたいなんて好き者いないよ。まして相手は陽キャラリア充、超美人で学園でも名前が知れ渡っている女の子だよ。身分が違いすぎてその線はない。第一こんな陰キャラと仲良くなるメリットが見当もつかないよ」

『…………………………………にゃー、吾輩には目の前のあおつきが全てだから、そこら辺はよくわからないにゃ』


 多分、ここでは明るいキャラで振る舞っているから、普段の陰キャラモードを知らないにゃん太郎にはビジョンが一致しないんだろうな。

 学園内と違いメガネからコンタクトへ変えて、ヘアスタイルも弄っている。接客業だから辛気臭さでお客様を不快な思いにさせるわけにはいけないからだ。


 今日は週二回行うぬいぐるみショーの日。ちびっ子達に楽しんでもらうために念入りにリハーサルをする。

 それで今は休憩を終えて相棒とショーの最終確認。

 僕の役目はにゃん太郎のサポート。ようは黒子だ。


「よし開演時間だ」

『あおつき、今日もかっこいいぞな!』

「にゃん太郎も可愛いよ」

『知っているにゃー。吾輩はプリティーでラブリーなのだにゃん』


 親友に目一杯抱きつかれる。だから暑いってーの。


 貧乏なみのり野台遊園地は今日も夜まで通常営業。だから夕刻でも舞台はある。

 

 イベントは本来なら専門職に依頼するのがベターなのだが、うちの遊園地は万年赤字なのでそんな余計な資金はない。


 テレビや雑誌にさえ取り上げられない小規模の弱小遊園地なのだ。俺達スタッフ達で着ぐるみショーとか色々とアイデア出してやりくりしている。

 著作権とか引っかかるので有名なキャラは出来ない。うちのにゃん太郎を中心とするオリジナル動物ファミリーだ。


「俺はお前を信じる、だからお前は俺を信じろ」

『了解にゃ!』


 そして斜陽の強い光を浴びながら幕が上がる。

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