お人好し、予言の日にもスロを打つ

ムタムッタ

お人好し、世界を救う?



 2025年7月5日。

 七夕前でも盛況なパチンコ屋では、大当たりの音が絶えない。スロットコーナーではキュインキュインと羨ましいほどに鳴り響く。


 なんでも、今日世界が滅亡するなんて予言が巷で話題だが……そんな日にもパチ屋に来る奴らはそもそも知らないのかもしれない。


『地球に隕石が接近中、人類滅亡か?』


 なんてSNSでもバズるから手に負えない。怪しげなインフルエンサーや目立ちたがり屋の芸能人が根拠もないことを羅列していた。


 正直なところ、世界の滅亡より目の前の当たりの方が大事だからあまり興味はない。


「ねぇ、これ止めてくれない?」


 それはそれとして、隣にいた若いおねーちゃんがこちらに声をかけてきた。ずいぶんラフな格好をした、黒い髪の女の子だ。大学生くらいだろうか?


「…………俺?」

「そ。なーんか上手く止められなくて」

 

 困ったように彼女は台を指差す。

 スロットで大当たりすると、自力で「7」の図柄を真横か斜めに揃える必要がある。俺の打っている台もそうなのだが、どうやらとなりのおねーちゃん、目押しが出来ないらしい。


「おねーちゃんこういうの初めて?」

「うん! 今日初体験」


 なんだろう、字面だけだと怪しいおっさんになってしまった。


 常連の爺さん婆さんに代わりに揃えてくれと言われることはあるが、こんな若い子に頼られるのは初めてだ。


「まぁいいけど」

「やった」


 レバーを叩くとリールが回る。回転するリールの中で、赤色の7だけ目で追いつつ、画面内に止まるように左からボタンを押していく。


 777と、7が3つ揃い大当たり。あとは適当にボタンを押していけばそれで終わりだ。

 

「おにーさん上手だね、ありがと!」

「どういたしまして」


 さて、スロットを知らん女の子に付き合っている場合ではない。既に2万円突っ込んでしまっている以上、こちらも退くに退けない状況なのだ。


 周りが大当たりの音を鳴らす中、一向に当たらない。レバーを叩いてはボタンを押し、レバーを叩いては方がボタンを押す。


 なにも起きない。

 頭上のピエロが笑っているようだ。


「おにーさぁん、これ止めてぇ」

「うぇ⁉︎ もう当たったのか……」

「全然揃わないよぉ」


 じゃあ打つなや……と、若干嫉妬めいた感情が過ぎるものの、ここで善行を積めば当たるのでは? というオカルト思考も湧くもの。


「仕方ないなぁ」

「ありがと!」


 どうかREGバケでありますように。

 数秒前とは変わってカスみたいな思考で7を揃えてあげると、またもスリーセブン。


「やったー!」

「よ、ヨカッタネ…………」


 もう移動しようかな……そう思って一度席を離れてみたものの、既に店内のスロットコーナーは満員状態。世界滅亡を前にギャンブラーも必死である。


 やはり七夕を待たずに焦って無難な台に座ったのがダメだったのかもしれない。


「おにーさん!」

「んぁ? あぁ、お隣の」

「また当たったんだけどさー揃えてー!」

「えぇ……」


 うらやましいことだ……ビギナーズラックを世界崩壊前に味わえてさぞ満足だろう。正直なところ、いい加減断りたかったが移動できる場所もないし、なにより強めに引っ張られて元の席に戻された。


「ぜんっぜん見えないの!」

「ハハハ、最初はそんなもんだよ。教えるからやってみ」

「えー」

「せっかく来たんだから自分で揃えてみなよ。楽しいよ」


 少し口を尖らせつつも、女の子はレバーを優しく下ろした。


「1回転してくるわけだからさ、せーのっ! って感じでやれば揃うよ」

「ほんとぉ?」

「ほんとほんと」


 俺のイメージとしては『長縄跳び』を意識している。1回転するリールに飛び込むと考えればタイミングは取りやすい…………と考えている。


「せーのっ!」

「あ、止まった!」

「あと2回ね」


 この黒髪の女の子、できないという割には要領良く7を揃えてしまった。なんという幸運。やっぱり純粋に楽しんでる方が当たるんだな…………


「やった!」

「よかったねぇ」


 あぁ、こんなことしてる場合じゃない。早く1000枚は取り返さないとやばい。今日は前哨戦なんだ…………7月7日こそ本命の勝負なんだ!


「ありがとねおにーさん、最後に楽しめたよ」

「最後?」

「だって、明日世界滅びるんでしょ?」

「しないよ。明後日スロットで勝たないといけないんだから」

「なにそれ、変なの!」

「世界滅亡するなら七夕が終わってからにしてほしいね。織姫と彦星も会えないぞ」


 …………いや、あいつらは空の上か。

 まぁそんなことはどうでもいいんだ。早く当たってほしい。切に願う。


「あはは、それもそうだね! じゃあ私行かなきゃ」

「え、ちょちょちょ、行くって、メダルどうすんの⁉」

「おにーさんにあげるよ、優しくしてくれたし。じゃあねー!」


 そう言うと彼女は席を立って小走り気味に行ってしまった…………約700枚のメダルが、彼女の遊んでいた台の下に溜まっていた。


「変なおねーちゃんもいたもんだ」


 彼氏にでも呼ばれたのだろうか。

 まぁこのまま放置しても迷惑だし、あげるって言われたしもらっとくか。

 


 図らずとも約14000円を手に入れたものの、勝って手に入れたものではない。なんだかスロットに使うのも躊躇われたので帰りのスーパーの募金箱にすべて突っ込んでおいた。これも善行だろう、きっと七夕で勝てる。



 結局7月5日に世界が滅びることはなかった。

 なんでも隕石は5日の夕方ごろに軌道が逸れて、地球から離れて行ったとかなんとか。ほれみろ、予言なんてあてにならんだろ? 人類滅亡なんてパチンコスロットの『チャンスかも?』くらい信頼できない。


 滅びますよと確定しているなら、パチ屋なんぞ開いていないのだ。

 だからこうして7日にも元気にスロットを打っている。年中無休のパチ屋に感謝。


 そして5日に女の子へ親切にして、もらったお金は募金した俺は無敵ということだ。善行は積めば積んだだけパチに還元されるように出来ている。だから俺はトータルでは勝っているんだ。


 あの女の子がなんだったのか、そういうことは分からないままでいい。たまにいるんだ、ちょっと変わった客というのは。


 で、どうなったかっていうと、七夕で10万負けた。

 世界の滅亡なんぞより、貯金の残高が減ったことの方がよっぽど大事である。


 この負けは来週取り戻す。

 最終的に勝てばいいんだよ。世界は滅んでないんだから。


 

 

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