音痴の俺に、声は届かない。だから物語を書く
ウイング神風
音痴の俺に、声は届かない。だから物語を書く
「大きくなったら、声優になろうね。だいちゃん」
「うん。俺達は、声優になって、ラブコメに出演しよう」
俺、伊藤大輔(いとうだいすけ)、は林彩(はやしあや)と約束を交わす。それは大きくなったら、声優になること。それは、とあるアニメがきっかけで、俺達は約束を交わした。
その作品は男女がいちゃいちゃして、ラブラブするような作品であり。胸焼けするほど、イチャラブだった。でも、ラストの感動劇に心臓が跳ね上がり、全身に血液が回り。ドキドキとニマニマが混ざりあったのだ。
そうだ。俺達はこのドキラブ正宗くんに感動したのだ。5歳の俺達はこの作品を見て、大笑いし、涙をこぼした。
それは、この作品があまりにも青年向きのロミオとジュリエットに似ているからだ。
当時、その本を知らない俺達はただただ、この物語を没頭した。
あの日みた、感動は、十年経過しても、色褪せない。
躍動と夢を与えてくれたのだからだ。
なので、俺達はその夢で生きていきたいと強く願った。
「指切りげんまんをしましょう」
「そうだね、あやちゃん」
指切りげんまん。子供の呪縛を俺達は交わしてしまった。
でも、後悔をしていないのだ。だって、俺達もアニメに出演したくなったのだ。
あのアニメで、俺達は夢が決まったのだ。
宿命のように、運命のように、神の恵みのように、俺達は指切りをする。
嘘をついた人は針千本を飲む、と交わすのだった。
それから、俺達はお互い、声優に向けて、未来に進むのだ。
俺と彩は芸能部がある高等学校に入学したのだ。
その学校はアニメ業界を支える学部が存在した。
俺と彩は声優志望であるため、声優部に入学したのだ。
しかし、なにもかも順調のようになっていると、思うときこそ、事件は起きる。
子供の俺はそんなことを知らずに、声優で食っていこうと思っているバカではあった。
なので、その夢が叶わないことを想定していなかったのだ。
夢は誰もが叶うものではないと、当時の俺は知らなかった。
それはある日のこと。音楽の授業のときに、音の波長がうまく噛み合わないことに気づく。
音をどんなに修正しても、なにかがずれる。
まるで、針を海に落としたように、俺は彷徨うのだった。
修正すれば、音がどんどんすれていく。ずれる音を修正すれば、つぎはこっちがずれる。
……何かがおかしい。
俺はそう思いながら、音楽に歌をあわせる。でも、俺の歌はどんどん音楽から離れていくのだった。それは、歌声は音楽が離れていく感覚。ピッチが全く合わないのだ。そんな違和感に俺は目眩がする。
音楽と合わない歌声はこんなにも気持ち悪いのだ、と始めて実感したのだ。
「キミには音楽の才能がないよ」
ボーカルの先生はそうはっきりと俺に宣言する。
俺は、涙を流しながらも、歌を必死に合わせようとする。しかし、やはり、努力は皆無だった。どんなに頑張って、音楽に合わせれば、どんどん離れていく感覚。
……気色悪い気がしたのだ。
なにもかも、離れていく感覚は気持ち悪くて、どうしようもなかった。努力しても、できないことがあると、俺は初めて知ったんだ。この敗北感は空いた心の穴が埋まらない気持ちだった。
……心臓が泣いていた。
初めての敗北感に、俺はどうしようもなかった。なにをしても、無理で、どうしても、だめで、頑張っても、離れていく、気持ち悪い感情に、俺は毎日泣いてしまった。
そんな毎日頑張っている日に、母さんはこう言い出す。
「もう、いいんじゃないの。頑張らなくて」
その一言で、俺は我に返る。
俺がボーカルをやめて、初めて心の中に虹が見える。いままで、血と精神を削って、頑張っている自分がバカバカしく感じた。なにせ、毎日努力している自分が、苦しかった。反吐が出そうな毎日。
なのに、それを辞めると、すべてから解放された感覚に落ちる。
俺はいままで、なんのために頑張ってきたのか、忘れてしまうほど、気が楽になった。
そうだ。俺は音楽音痴なのだ。
だから、音楽をどう頑張っても、歌は音楽に合わないのだ。
そして、それで俺はあることに気づく。
……俺は、声優に向いていないのだ。
約束を果たせなかった罪悪感よりも気楽のほうが勝ってしまった。
なので、俺は彩に顔向きすることができないのだ。同じ高等学校に通いながらも、俺は彩と話をしないようにしていた。だって、怖かったのだ。俺が彩を裏切ったことに。
だから、俺は学校の声優部を退会し、普通部に移った。
これから、声優志望の伊藤大輔ではなく、一般庶民の伊藤大輔になるのだ。
もう、音楽の地獄を聞かないで済むのだ。もう、音楽の授業で苦しむことはない。もう、歌を練習しなくてもいいのだ。
俺は彩に顔向きすることはできないのだ。
だって、彩を裏切ったのだから。針千本を飲まなければいけないのだけど。
俺は針千本飲むより、彩と顔合わせする方が怖かった。
それは、彩への罪悪感が辛かったからだ。
声優部引退してから、俺は毎日堕落した。
堕落、と言っても、なにもやることせずに、ただ学校に行って帰るだけのこと。誰とも会話をせずに、生きているだけの機械になった。息を吸って吐いての動物に成り下がった。
……生きることがこんなにも辛かったなんて、俺は思いも知らなかったのだ。
ただ、毎日を灰色のように送っている自分が辛かった。でも、声優を目指すときと比べたら、やはり今のほうが楽であると答えてしまったのだ。
転校することも考えた、けど、声優に未練があり、彩から離れたくなかった。裏切り者がなにをいうのかと思うのだけれど、その離れたくない気持ちは大きかったのだ。
俺が衰退する一方で、彩は声優にちゃんと成長していく。新人声優として成長し、初めての仕事はヒロイン役でもあったのだ。彼女は徐々に有名になっていき、学校のエースでも言えるような存在になっていくのだった。
彩はもう俺には手が届かないような存在になってしまったのだ。
俺は自分が音楽音痴であることを悔しくて、たまらないのだった。夢が叶わないだなんて、神様のイタズラは残酷だと思ったのだ。
彩に顔向けできない俺は彼女の活躍を静かに見守ったのだ。
いい感じの男子声優とのスキャンダルを聞くたびには、胸が張り裂けそうになる。でも、俺は音楽音痴だ。歌を歌えない声優に未来はないのだ。声のトーンをわからない声優は観客の心を掴むことができない、と先生は言ってたからだ。
俺は声優になれないのだ。
「やあやあ、キミ、シナリオ部が作成したものをみないかい?」
そんなある日。俺はいつもどおりに帰ろうとすると、一人の少女に呼び止められる。彼女はチラシを一枚俺に渡してから、映画の勧誘をした。
チラシを受け取った俺はその内容を見る。
堂々と、タイトルがこう書かれていた『美術館の片隅で、僕は色彩の証明を乞う』とのこと。
最初はダサい名前だな、と思った。何こんなに長々とタイトルつけているのだろうかと思う。
なので、俺はそのチラシを返して、こう言った。
「興味ないので」
「そんな冷たいことを言わないでよね。シナリオ部の最高傑作だ」
「だから、興味ないです」
「ヒロインの声優はあの林彩を使っているよ」
そこで、俺は手を止める。
あの林彩が担当しているヒロインの作品を見たことがないことに気づく。彼女はどんな声をだして、どんなヒロインを演じ、どんな内容を客に届けているのか、俺は全く知らなかった。
声優部を退部してから、俺は彩の声を聞くのが怖くなったのだからだ。
それは、彼女が成長しているところを見たくなかったのだ。
なので、俺は少女にこのチラシを返そうとする。
「やっぱり、見ないです」
「頼むよ。少年。キミの感想が聞きたい。きっと、感動するぞ」
懇願する少女に俺は大きなため息を吐き出す。
感想と言っても、この世の中のアニメはなにもかも同じじゃないか。どのアニメも内容はありきたりで、なにも新鮮味がない。だから、このアニメもきっとありきたりなのだろうし、すごいものではないと思った。
なので、俺ははっきりと断る。
「感動なんて嘘だ」
「そう言わずにね」
少女はチラシを強引に押し付けると、俺のもとから離れていったのだ。
嵐のような女だ。いきなりチラシを押し付けて、いきなり離れていくのだ。しかも、答えになっていない。俺はこの映画が感動しないと思っているのに、少女はそのことについて何も触れていないのだ。
でも、受け取ったし、放課後はやることもないし、時間つぶしには適切なのだろう。
だから、放課後に俺は何も考えずに、放送室にやってきた。
そこには大量な生徒が集まっていたのだ。
こんなに多い人に、俺は戸惑う。なぜ、こんなに生徒が多いのか。みんなは暇人なのか? 放課後に放送室で映画を見るのか。みんな、あの女に騙されたのか、と一瞬思う。
「なんで、こんなに人が多いだよ」
「お前、斎藤恵しらないのか?」
一人の男子生徒がそう言いだす。
俺は一瞬戸惑う、いきなり声をかけられたので、うす、と俺は頭を下げる。
彼はチャラい格好で、物事を話す。
「斎藤恵。この学校での腕の良い監督だよ。シナリオライターで、なにもかも感動に書き上げられる脚本家だ」
「そんなにか?」
「まあ、お前もこの作品見ればわかる」
カラカラと笑い出すチャラ男は友達とくるみ、席を確保する。
俺も、席を確保しないといけない、と思い。席を探す。空いている席は一番うしろの方だ。全会場が見渡せる場所でもあり、悪い場所ではない。
パイプ椅子に鎮座すると、あの少女、チラシを押し付けた少女が挨拶をする。
「斎藤恵です。今日は集まっていただき、感謝します。今日は学校側の制作で、短編映画を作成しました。みなさんが楽しめれば幸いです」
そんな素朴の挨拶に、パチパチパチと、拍手を送る生徒だった。
俺も適当に拍手を送る。
正直、この映画もきっと声優釣りで、声優目当ての生徒を集めたのだろう。
みんな、斎藤恵みの脚本家なんて、見ていない。あのチャラ男だけが、吹聴したもので。大げさに物事を拡大しただけだ。このアニメ、短編動画はそんなにすごいわけがない。なにせ、学園制作なものだ。この学校の生徒がうまく制作できるとは思わないのだ。
でも、俺の考えは間違っていた。
映画が始まると、みんなは黙り込み。映画に集中する。
短編映画なのに、出来がいいのだ。まず、画質がいい。映画館で放送できるようなレベルなものでもあるのだ。
音質もいい。それは声優だけの話ではない。BGM回りのところもかなりよく出来ているのだ。
最後に、シナリオ、脚本が素晴らしかった。芸術にまつわる場所「美術館」を舞台に、少年が自分の色盲を乗り越え、自分なりの「色彩の証明」をしようとする姿。そしてそれを美学少女に認めてもらいたい、あるいは共に作り上げたいという願いが込められている。すこしド派手さもあり、白黒で観客を騙し、最後に色彩をあふれる画像は素晴らしかった。
俺は、思わず涙を流してしまったのだ。
……ああ、俺が声優を目指した理由。それは、あのアニメに感動をしたからだ。
あのラブコメのアニメに俺は感動して、アニメの声優になりたかった。
この短編アニメはその感動を再び目覚めさせてくれたのだ。
俺は涙を流していると、斎藤が近寄ってくる。
「ねえ? 感動したでしょ?」
悔しいけど、感動した。
彼女の言う通りなことになったのだ。俺は、顔がぐじゃぐじゃになるまで泣いてしまった。
斎藤はハンカチを俺に渡すのだった。彼女からハンカチを受け取ると、顔を拭う。
ぐじゃぐじゃになった顔を、斎藤は笑い出す。
「キミ、すごい面白いね」
……なんだか、恥ずかしく感じた。
だって、人前、とくに女性の前で泣いたのだから。
そこから、落ち着き、俺は自分の悩みを斎藤に話す。俺は声優になれない。でも、幼馴染を裏切たくはないのだ。どうすればいいのか?
そこで、斎藤はある提案をする。
「なら、キミも脚本家になればいいじゃない」
……脚本家? どうしてだ?
「彼女と一緒に仕事したいのでしょ? なら、脚本家になるしかないよ」
そうは言われても、俺は物作りの初心者だ。うまく書けると思わない。俺の国語能力は人並みと変わらない。だから、物語作りはできないとはっきりと言い出す。
「物語作りに国語なんて関係ないよ」
それから、俺は彼女にいろんなレクチャーをされた。
物語作りは国語能力ではない。人に感情を揺らせるようなことをすることだ。ロミオとジュリエットみたいに、人が人と会って、引力みたいに引き合って、起こるドラマチックこそが物語なんだと。
試しに、俺は脚本を掻いて見るように言われる。
期限は来週一杯の金曜日だ。
家に帰ると、俺は物語を書いてみる。世界観、ヒロイン、主人公、脇役、物語。様々な物を書いてみる。けど、何かが納得いかないのだ。紙を千切る。破って、新しい物語を書く。でも、納得がいかない。破る。そしてまた新たに書いてみる。
なにもかも納得がいかない。でも、俺の心は満たされていく。
凄く楽しい。これが物作りなのか。音楽音痴よりははるかに凄く楽しい自分の姿がいた。
俺はペンを走らせて、修正や改稿し、いくども丸と線を台本に書く。
納得いかない場所は徹底的に書き直す。一文字一文字を徹底的に振り絞るのだった。手が赤くなるほど、俺は台本書きに、没頭するのだった。
やり方は独自の方法で、独学で書いたものでもあった。
ネットで勉強して、物語を綴る。
それがどんなものか、どんな出来なのか、知らないまま自分で書き上げる。
気づけば日付が変わるほど、俺は没頭していたのだ。
なぜ、こんなに俺はこんなに没頭できたのか、不思議に思う。
でも、一つ、気付いたことがあった。
それはあまりにも楽しいのだ。物語を作るのは、こんなに爽快で、気持ちよくて、心が踊りだすようなものでもある。日にちを忘れるほど、俺は不登校になる。
母さんは俺が壊れたのか、心配する。しかし、俺は元気で、物語作りに没頭していることを伝えると、母さんは安心する。そして、俺に頑張ってね、と応援するのだった。
俺は全身全霊をかけて、物語を最後まで書き出す。
短編シナリオをいくつかを書き上げる。
出来上がりなときには、俺は床で大の字になる。
そして、大きく笑い出した。こんなに世界が色鮮やかになるのは久々だった。
世界が七色に輝いている景色は今までにもない感情だった。
俺はやり遂げたのだ。作品を作り上げたのだ。
一晩、俺は深い眠りに入る。夢の中で、彩と合う。なんども、彼女に謝罪する。彼女は俺を許してくれるのだった。
目が覚めると、それは単なる夢だと気づくと、落ち込む。
もしかすると、本物の彩は俺を許してくれないじゃないかと思った。
あの大人で大人気声優に成長した彩は俺を虫けらのようにあしらうじゃないかと思った。
もう、声優を諦めた俺を眼中にないと言うじゃないかと思った。
再び怖くなる。
でも、楽しさのほうが勝った。
俺は自分が作った台本を握りしめて、学校に登校する。
汗水を垂らして、走り出す俺は、斎藤を探す。彼女はシナリオ部のクラスにいることを知ると、俺は彼女を会いに行く。そして、自分が全力で書いた台本を見せるのだ。
誤字脱字を確認して、物語の整合性も確認して、何日間も悩んだ末にできた物語だ。
あの放送室でみたものとはちょっと違うのだけれども、物語は物語になっている。
だから、きっと、楽しいはずだ。
「キミ、これを書いたの?」
……ああ、全力で書いた。
と、俺はそう答えると、斎藤は真剣な眼差しで台本を読むのだった。
彼女の瞳には黒いコーヒーのように黒くなっていた。視線は台本を見つめて、離れることはなかったのだ。眉を八の字になり、口は動かずに、目線だけ文字を追っていた。台本を真剣に読み上げているのが、気づくのだ。
俺は静かに黙って、彼女が読み終えるまで、彼女の様子を見ていた。
黒いポニーテールがゆらりと風に揺らされるのだった。
彼女の反応を俺はただただ見つめる。でも、表情だけじゃあ、何も読み取れない。彼女は喜怒哀楽を見せなかった。本当に俺の台本を真剣に向き合っているだけしかわからない。
「読み終えたよ」
……で、どうだった?
と、俺は言葉にせず、ただただ、つばを喉奥につまらせるだけだった。
きっと、俺は怖かったのだ。プロの彼女に評価されるのが。悪評が来るのだと、想定していたかもしれない。もし、この作品がつまらなかったと言われたら、俺はどうすればいいのか、わからなかった。
でも、全力で書いたものだ。色々頭を使い、爆発しそうになるまで考え抜いた結果だ。
どんなもになっても、それを受け入れる事ができるのだ。
なので、俺はただただ、彼女を真っ直ぐと眺める。
きれいな鼻筋に、きれいな黒い双眸が俺を見つけ返す。
その双眸に映るのは、一人落ち着く様子がない男子生徒。それは、俺のことだと、すぐにわかったのだ。
「うん! 楽しかったよ!」
それを聞くと、俺は席から倒れて、大の字になる。
なにか、冷たいものが瞳からこぼれて行くのを感じた。
そうか、これが感動の涙なのか。
「うわうわ、どうしたのキミ!」
……嬉しくて、泣いているのだ。と、言えなかったのだ。
俺はただただ、泣き虫のように泣き出すのだ。
だって、初めて書いた物語が、認められたのだからだ。これを感動しないで、なんと言えばいいのか。
俺は言葉を探すが、うまく言葉に出せない自分が未熟に感じた。
「キミ、才能があるよ。シナリオ部においでよ」
そんな泣いている俺に、斎藤は手を差し伸べるのだった。
俺は、その手を掴むと、世界が変わったようになった。
なにぜ、きれいに輝いている。俺の居場所はこういうことなんだ。と思ったのだ。
その日から俺は自分を見つける。俺は脚本家になる道を決まる。
家に帰ると、俺は母さんに報告する。俺はシナリオ部に移行し、シナリオ、脚本作りで生きていきたいと。
母さんはそれを聞くと、安心するのだった。
俺が一年間なにもしないで、生きているのか、死んでいるのか、わからない状態が今は活き活きとしているのだ。
それは、俺には新たな夢を見つけたのだと思う。
でも、シナリオ部は誰もかもが転部していいものではない。
課題があるのだ。それは、観客が面白いと言える脚本を作り上げるものだ。
その試験があると知った俺は、なんだか、ワクワクした。辛いと言うより、楽しさが増した。
俺は家に帰って、シナリオをいくつかを書く。物語が一番素朴で、楽しいものを一晩で書き上げるのだった。
内容はこうだ。現代日本に住む少年は、絵を描くことが大好きだったが、周囲からは「何の役にも立たない」「もっと現実を見ろ」と常に否定され、自分の才能を捨ててしまう。ある日、事故に巻き込まれ、絵に描いたものが具現化する「創世魔法」が存在する異世界に転生する。彼はそこで、自分と同じように周囲に才能を否定されながらも、ひたむきに「誰も見たことのない景色」を描こうとする異世界の少女と出会う。
こうも異世界チートのように、どうにでもなる作品でもあった。
でも、俺は楽しく創作することができたのだ。
物語を簡潔に、書き出す。走り出したペンは収まることがないのだ。一度、走ったものは、止まることなく最後まで書き上げる。この物語を俺は創作し、過去に見た楽しい作品を詰め合わせたものだ。
だから、この作品は自信作でもあり、俺はその課題を乗り越えるのだった。
結果、俺の作品は選ばれる。
短編アニメの制作が決定されるのだった。
そんなときに、俺は彩に向き合うことを決意する。
彩と果たせなかった約束を、再び動かしたかったのだ。
今度は声優ではなく、脚本家として、俺は彩に出会うのだ。
「彩、ごめん。俺は声優になれない」
彩似合いに行くと、俺は頭を下げる。
自分が声優になれないことをちゃんとまっすぐと話。ちゃんと説明するのだった。
俺は、音符音痴で、テンポに合わせて歌を歌えないのだ。
歌えない声優は価値がないことを説明する。
そこで、彩は涙を流して、こう放つ。
「そうか、私がだいくんを苦しめたのか」
彩はきれいな水滴を瞳から流れ出す。
悔しいが、俺はその瞳を拭う権利はないことを知る。なにせ、俺は彩を裏切って、声優になれなかったのだからだ。
彩は泣き虫だ。昔から、感動しているものを見ると、涙を流すような人だ。
でも、今度は俺がしっかりしなければいけないのだ。
だから、俺は彩の手を握りしめて、こう言う。
「彩、どうか、泣かないでくれ。俺は、彩の支えになる。今度は、声優ではなく、脚本家として生きていく」
そういうと、彩は泣き止む。そして、顔を頷かせるのだった。
俺達は前に進むことを決意するのだった。
俺は、脚本家の道に、彼女は声優に。
俺は、誰もがときめくラブコメの脚本を作り上げて、彩に声優を担当する。
それが、俺達の新たな約束を交わす。
その約束が1年後に叶うのか、5年後に叶うのか、10年後に叶うのか、誰も知らない。
でも、そう決めた俺達は新たな道を切り開くことを決めたのだ。
今度こそ、破らない約束を交わす。
指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲まず、指切った。
音痴の俺に、声は届かない。だから物語を書く ウイング神風 @WimgKamikaze
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