第44話:悪魔の方程式


「アーゾル様。大丈夫でしたか!?」


 俺が本体の根元で酒を飲んでいると、青ざめた顔のイゲムントが顔を出した。エデンガーデン連邦の座標は持っているし、和風ワープで顔を出すのもこれが最初ではないしな。


「銀行の火災は止めたぞ」


「ルミナス様が……と聞きましたが」


 一応伝え聞いているわけだ。俺がサークラーダファミリーを潰した理由を、それとなく伝えるようには言っていたが、ちゃんと聞いたらしい。


「そっちも大丈夫だ。全部潰した」


「そ……そうでございましたか」


「不安だったか?」


「既にアーゾル様の威力は見ておりますので。帝都を更地に変えたと言われても驚きはすれど覚悟する程度には焦っておりましたぞ」


「とりあえず酒を飲め」


 器に入っている酒を、コップに注ぐ。陶器や磁器もエデンガーデン連邦では当たり前になってきた。文化の流入は素晴らしいものだ。


「王国の銀行はどうなってる?」


「順調であります。順調すぎて、気を引き締める程度には」


「問題は即座に言ってくれ。ただしギルメートにな」


「特に金貸し業があまりの暴威を貪っておりまして」


「だろうな」


「よくあんな悪魔的な計算が出来ますな」


 俺の前世では普通にやっていたが。


「銀行の金貸し業は捗るだろ?」


「単純にキャッシュカードに借金を記載。利息付きで返してもらえる。破産した場合は相手の財産を徴収。つまり無から金を創れます。まさにヴォイドマネーに相応しい悪魔の方程式ですな」


 銀行の借金は経済的根拠が無く、ゼロから金を産む。それに利息が付いて儲け、返済できない場合はそれ以外を差し押さえる。結果銀行そのものがキャッシュカードを通じて、ヴォイドマネーを総取りできるのだ。データ上だけの金が動くと、それを支配しているのはギルメートで、つまり総数で言えば国家以上の金をギルメート個人が受け持っているともとれる状況になる。少なくとも実際の貨幣の倍くらいにヴォイドマネーが膨れ上がったら、ギルメートの発言力は国を超えるだろう。


「そんなにお金いらないだぁよ」


 同じく酒の席に座っているギルメートが、ワインを飲んでいた。


「わしもウハウハですわ。銀行員に給料をばらまいても儲けが止まりません」


「銀行員になりたい奴も多いだろ」


「ですな。しかし誓約呪術……でしたか? アレも中々御厄介でして」


「それもギルメートのガーネットマクロの恩恵だが」


「うにゃーだぁよ」


 ワインを呷った後、ゴロリと寝転がって目を回すギルメート。酒を飲むやつは本質的に馬鹿だが、それでも飲ませる魔力を持っている酒にも責任はある気がする。


「アーゾル様には一銭も入っていませんのですか?」


「キャッシュカードは持ってるぞ。最低限の金はある」


 エデンガーデン連邦でもカードは用いられているし、王国や帝国ともカードでやり取りもしているし。特にクリームパンはルミナスのトレンドなので帝国の乳製品は俺にとって黄金より価値がある。


「それで貨幣の収納についてなのですが」


 アイテムスペースを持っている行員を最低一人は支店に配属すること。これが銀行運営の基礎だ。で、その管理している貨幣や黄金を、ギルメートの晩秋バースで管理する。キャッシュカードから貨幣に戻した場合は、ギルメートの出番でもある。全く無いわけでもないので、そこはしっかりしてもらう必要があるが。ただキャッシュカード同士で金銭授受は完結するので、少なくとも王国と帝国ではデータ上の金ですべて済む。あえて貨幣を求めるとしたら、他国と取引している商人か。それだって財産の一部をキャッシュカードに登録していれば、盗賊に襲われても最低限の財産は残る。呪詛誓約でキャッシュカードは合意無き金銭授受は出来ないし、ついでに血液登録した当人にしか使えないようになっている。なのでキャッシュカードを盗んでも他人には無用の長物。紛失しても金を払って再登録すれば、ガーネットに記録されている数値上のお金は保証されているのだから。


「それよりアーゾル様ですよ。サークラーダファミリーの報復は恐れないのですか?」


「怖くないと言えばウソになるが、あれは必要な戦闘だったしな」


 ルミナスをさらって五体満足でいられると思っている人間が度し難い。


「王国のゴルバニアファミリーも大人しくなっただろ?」


「というかマフィアとして機能していませんな」


「まぁそれはルミナスの術式だが」


「…………褒めて褒めて」


「ルミナス可愛い! 大正義!」


 俺はギュッとルミナスを抱きしめ、イイ子イイ子する。


「それより頼んだ件だが」


 で、俺も昼間から酒をかっくっらって、自堕落なのだが。それはそれとして。


終焉死因ラストシーン……ですな」


「何か聞いたか?」


「いえ。何も。まったく情報が得られず」


「とすると、俺の完璧な勘違い……か」


「あるいは、徹底的に組織としての概要を隠蔽しているか……ですな」


「組織名を隠蔽しているにしても、バーナーのテンション見る限り結構ガバガバなんだが」


 口も軽いし、守秘義務もなさそうだし。とするとそもそも終焉死因ラストシーンなんて組織そのものが眉唾である……という結論が一番自然なのだが、そうじゃないことを俺だけは知っているのだ。


「実際にエルフの王国を襲撃したでありますからなぁ」


 またこっちも酒を飲んでいるイゾルデがいう。こいつもあの場に立ち会った一人だ。


 焼死のバーナー。炎の術式を使う自覚のない呪術師。まぁ世の中には天才というものがいて。呪術も元々天才の領域だった。無意識にエギオンをホロウボースに変換できる直感型の天才が可能として技術を論理立てて解明したが故に、俺のような理屈倒れの呪術師が生まれたと言っても過言ではないのだ。


終焉死因ラストシーン……ねぇ」


「引き続き情報を集めます」


「ただし被害が出ないようにな」


「被害……ですか」


 イゲムントが眉を顰める。


「相手は世界の終わりを志している秘密結社だ。嗅ぎまわっている人間を察知すれば即座に殺しに来るだろうよ」


和風ワープで逃げる……は理想論でしょうか?」


「中々そうもいかんのが呪術でな」


 伝死レンジについて語ると話がややこしくなるんだが。


「お前に死なれると俺も困る。なので、最悪連鎖的にお前が死なないように捜査してくれ」


「承知しました。しかしアーゾル様の御期待に応えるのもわしの役目と受け止めております」


「最悪死んでも生き返らせるから、せめて死体の欠損は少なめにな」


「死者を蘇生する……のですか!?」


「まぁわけないな」


 死を生に反転するだけだ。


「ではアーゾル様の庇護下に入れば、死は取り返しがつくと」


「とは言っても、あくまで俺の機嫌次第だぞ」


「しかしそれではアーゾル様にすり寄るわしのような人間が群がりませんか?」


「イゲムントは役に立つから死なれたら困る……程度だ。別に誰かれ助ける趣味はないし、イゲムントが必要なくなればあえて蘇生もしない。だから話半分で聞いておいてくれ」


「とは仰っても」


 イゲムントは冷や汗をかいている様であった。













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