第45話:口にすればハイになる
季節は冬。色々と季節を体験してきたが、やはり冬というのは厳しい。植物にとっては恒温動物以上に厳しい季節だ。仕方ないのでザゼンソウを具現して暖を取る。コタツが欲しい。ちょっと火葬術で応用できないのだろうか。
「アーゾル様。お客様が……」
「あと五分待たせて」
俺は屋敷の個室で、ベッドに潜り込んだまま微睡の中を彷徨っていた。屋敷には暖房が効いていないが、さすがにベッドの中は暖かい。出来得るならば春が来るまで出たくない。
「お願いですから起きてください」
「じゃあ妥協してあと五時間」
「妥協していませんよぅ」
布団をはぎとられて。どてらを羽織るわけにもいかず。伊達やハッタリであるスーツを着て、来客用の屋敷に顔を出す。もちろん寒いのでスリーピースだ。
「ご休憩のところ申し訳ありません。アーゾル様」
エデンガーデン連邦でも雪景色は見られる。俺の眷属の樹海は、寒さにも負けずスクスクと育っているというか。そもそも一番スクスク育っているのが俺だったりする。地平線の彼方という意味では、隣国のオールゴール王国も、バーングレイス帝国も、そこそこ見えるレベル。ただ問題があって、巨大であろうと視界が開けていようと目が無いので物理的には見えない。一応、フィールフィールドの拡張技術は特訓しているのだが、それでも数十キロ程度まで広げられるのが限界。大樹であろうと歩けないので、危機感知と灯台の役目くらいしかすることがないのだよな。アバターの俺は普通に俺から果実採取しているし。別にそれはいいのだが。
「それで要件って? 投資でもしてほしいのか?」
俺は金持ってないぞ。懐は温かいが。
「その………………バーングレイス帝国のことなのですが」
「はあ」
立ち上がって冷や汗をかいているイゲムント。そのハンカチで汗を拭う彼に座るよう促す。もちろん座りにくいだろうから俺が先に座る。
「アーゾル様。紅茶でよろしかったでしょうか?」
「ジャムを入れてくれ」
「承知しました」
果実は色々取れるので、ジャムは作れる。イチゴジャム。ブルーベリージャム。マーマレード。その他もろもろ。砂糖も大量にあるしな。
「流行り病が」
「うげ」
我ながら乙女らしからぬ声が出たが、それも仕方あるまい。イゲムントがそこら辺の厄介事を俺の直接差し向けるわけが無いと信頼しているが、それはそれとして迷惑な話ではある。
「もしかしてそちらの?」
と、沈鬱な表情をしているダンディなおじ様が同席している。光沢のある生地の服を着ているので多分貴族。
「もちろん注意は万全です! わしもアルコール消毒はしておりますし。こちらのボイゾン卿も流行り病を患っていないから連れてきた次第で」
「流行り病って言われてもな」
俺は医者じゃねえ。病なんか治せんぞ。と忠告はしたのだが、そういう話でもないらしい。
「穀物と果実の輸出?」
「ええ、その、流行り病のせいで帝都の食糧不足が深刻でして」
その言葉だけで何を言っているのか分かる奴がいたら勲一等を送ってもいい。
「なんで発病して食糧難?」
「飯が食えんのです」
だったら余計だろ。飯の食えない病人が多数出たなら、むしろ食料は売れないんじゃないか?
「それが。食欲は旺盛なのですが……」
イゲムントが汗を流しながら言葉を紡ぎ。俺はその隣に座っているおじ様に声をかける。たしかボイゾン卿とか言ったか。
「説明してもらえるか?」
「はい。その。帝都では謎の奇病が流行り、発症した者は、口に食べ物を入れると、口内で燃えて灰になってしまうのです」
「………………………………」
…………。
……………………。
………………………………はあ。
およそ理解しがたいが呪術師としては十全に理解のできる状況がボイゾン卿の口から語られた。発端は二日か三日前。突如として帝都民の一部が異変を感じ、モノを食べても満たされなくなった。というか食べ物を口に入れると、燃え上がってしまい灰になる。まさか灰を食って満たすわけにもいかず。飢餓が極まっており。市場では大騒乱。飯を食えない患者たちが飯を食おうと食堂や食べ物を売っている市場……はては人様の家の樹になっている果実まで、見境なく食おうとする。だがその全てが徒労に終わり、バーングレイス帝国の帝都は食糧危機に直面。さらに突っ込んだことを聞くと帝城でも問題が起こり、特に帝室の皇帝並びにその一族は全員発症。政治が滞り、経済も破綻。帝都ではグールのように飢餓に苦しんでいる被害者たちが練り歩き、食べられるものを見つけると、それに群がる地獄絵図と化しているらしい。
「流行り病ね」
「それでエデンガーデン連邦の食料を分けてもらうわけにはいきませんか? アーゾル様」
とイゲムントがお願いする。もちろん俺の答えなんて決まり切っている。
「ノー」
餓鬼道刑に堕ちた人間に食べ物を分け与えるとか、無益にもほどがある。まだしも採りたてホヤホヤのまま即座に捨てる方が生産的と言える。
「しかしこのままでは帝都が……」
「とは言っても口に入れても灰になるだけだろ? 俺が輸出しても同じじゃね?」
「まったく仰る通りではあるのですが」
そもそも話を聞くに流行り病ですらない。コレはれっきとした呪術。それもタタリの類だ。
「餓鬼道ねぇ」
「ガキドー……ですか?」
イゲムントが知らないのも無理はない。餓鬼。いまでこそ生意気な子供を指す言葉だが、本来は餓鬼道に堕ちた人間のことだ。そこでは食べ物を食っても口内で燃えて灰になるので、永遠に腹を満たせない……という世界。今回のケースは正にそれ。とすると餓鬼道の世界ルールを呪術として敷いている術師が存在することになり。
「呪いという奴ですか」
「帝都民全員が発症しているのか?」
「いえ。特に調べたわけではないのですが。感触としては五割から六割程度……」
とボイゾン卿。
「ふむ」
とすると帝都を結界で囲んでいるわけでもないのか、それが一番怪しかったのだが。
「どうにもなりませんか。アーゾル様」
イゲムントも困り顔で俺に縋る。もちろん「無理だ」と言いたい。そもそも解呪系の術式って回帰系統じゃないとどうにもならんのよな。俺は疑似回帰は使えるが、それは根本的な解決にもならんし。なにより術式関係なしに無条件解呪とか、前世で知り合いだったアイツくらいしか不可能だし。
「と、すると」
「伏してお願い申し上げます!」
ボイゾン卿は土下座までした。「頭を上げてください」と俺は恐縮する。別に食料を供給しようとも思っていないし、解呪も無理だ。だが、俺はそれとは別に呪術師に用があったのだった。ところで春はまだか。寒いんだが。
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