第43話:死の影



※ サークラーダファミリーの若頭の視点




「くそ!」


 既にオヤジは死んでいた。惨壊している屋敷からオヤジの死体が出てきて、事実上ファミリーは傾倒。オヤジを弔うことも出来ず、共同墓地に埋葬された。俺にとってはあり得ないことだ。俺を救ってくれたオヤジが、あんなあっさりと死んでいいはずがない。猛り狂う憎悪の感情が俺にとって今の思考そのもの。


「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」


 相手を俺は見ている。ダークエルフの親子だ。白い髪。黒い肌。長い耳。大人の方は胸が大きかった。それをいつものように見ていれば犯して孕ませたいと思ったのだろうが、今の俺にとっては怨讐の対象でしかない。オヤジを殺した。その事実が俺を怒らせていた。


「ふん。自分が世界で一番不幸とか思ってねえか?」


 貧民街でうずくまっていた俺にそう声をかけて、飯を食わせてくれたオヤジ。初めて人に優しくされて、そのまま俺は親父に惚れこんだ。たしかに褒められるような仕事はしていなかったが、必要悪という存在もある。オヤジは手を血で染めても、社会の弱者を救済したいと言っていたのだ。その救済された側である俺が、オヤジを手伝うのは自然だった。何を疑うでもない。誰も助けてくれなかった貧民時代。餓死しかけていた俺を救ったのは、国でも皇帝でも貴族でも医者でもなく……オヤジだったのだから。


 そのオヤジが殺された。忌むべきことだ。絶対にあのダークエルフどもは殺してやる。だがそれはそれとして実行に問題はある。アイツらはサークラーダファミリーの屋敷に殴り込みをかけて、そのまま無傷で護衛も三下も問題にせず鏖殺し、屋敷を残骸に変えるだけの戦力を持っている。そのまま挑んでも俺も殺されるだろう。だから、その絶対性を崩すために考えているのだが、アルコールが無ければやっていけない。


「誰かアイツらを殺してしまう奴はいねーのか……」


 飲み屋でクダを巻いていると、


「ほう。カタストロフをお求めか?」


 誰とも知らぬ人物が話しかけてきた。フード付きのローブを被っているが、声からして男。だが腕がやせ細っており枯れ木の枝の様だ。ちゃんと飯を食っているのか不安になるが、それはそれで余計なお世話だろう。


「この帝国を破滅させてえ。オヤジの弔いに、全ての国民に地獄を見せてえ」


「わかった。その願いを受諾しよう」


「受諾って……」


 痩せ細った腕のローブ男が俺の願いを受諾してどうするってんだ。


「我らは終焉死因ラストシーン。この世の終わりを願うもの」


「殺してくれるのか」


「貴方が望めば望むだけ」


「じゃあ殺してくれ! この都市を! この国を! オヤジを冷笑した誰も彼もを!」


「代わりにあなたも破滅に導くが……それはいいので」


「構わねえ!」


 俺はビールをジョッキで飲み干して、ダンッとテーブルに叩きつけた。


「オヤジの弔いが出来るなら……俺は破滅してもいい」


「了解した。ではその怨讐に応えようぞ」


「俺は何をすればいい?」


「サークラーダファミリーの若頭……で合っていますよね?」


「ああ、構成員もそこそこいるぞ」


 全滅はしていない。オヤジこそ殺されたが、まだオヤジを慕う構成員は俺の配下に数十人程度いる。その誰もがオヤジに人生を救われた孤児だ。


「では――――」


 一つの指示を出してくるローブの男。それが何を意味しているのか。俺にはわからなくて。それで帝国を破滅させられるのか?


「可能ですとも。御疑いですか?」


「いや、だって、なあ?」


 そんな指示に従って、帝国が破滅するなら世話はない。


「ゴッドファーザーの復讐の条件としては緩いと思うのですが」


 可能か不可能かなら可能だが。


「ではそれを集めて、一カ所にまとめてください。そこから先は手始めに私は帝都を滅ぼす」


「本当だな。やって……くれるんだな」


「もちろんですとも。この世の全てを終わらせましょう」


 その言葉にどれだけの信頼性があるのかはわからない。だが男が本気で言っているのだけは理解できた。であれば俺に出来ることは条件を満たすだけ。そうすればオヤジの葬式を欠席した帝都民の全てに復讐できるのだから。


「構成員を集めろ」


「アニキ。やるんですかい?」


「ああ、火をともせ。オヤジにつばを吐いた全ての人間を鏖殺する」


「わかりやしたぜ。兄貴の指示通りに」


 俺の指示っていうか、ローブの男の指示なのだが。


「で、どうするんだ」


「特に何も」


「おい」


 話が違う。


「あくまで例えです。サークラーダファミリーが手伝ってくれるなら最終試合エンドレースも捗るというものですから」


「エンドレース」


「さて、そこまでは説明する義理もありませんな」


「まぁいい。復讐を手伝ってくれるんだろ」


「この死因にかけて」


「じゃあ此処は奢ってやる。飲もうぜ?」


「ありがとうございます。代わりに全力で帝都を滅ぼしましょうぞ」


「ちなみにどうやってとか聞いてもいいのか?」


「呪いですよ」


「呪い?」


「チャイルド様は私たちにそれぞれの死因を与えてくださいました。私はその死因の一つ。終焉死因ラストシーンの一人であるのですから」


「それはすごいことなのか?」


「いえいえ。人はいずれ死ぬ。ただそれだけにございます」


「その死を早めようって事だろう?」


「ええ、霊長の死。それはどんな形が最適なのでしょうね?」


 霊長の死……ねえ。


「全ての人間が逃れられない死の原因があるとして、それはどんな形をしているのかという話です」


「わっかんねえ」


 そうとしか言えないだろう。そもそも人類って死ぬのか? 個人ではなく人類そのものが?


「なので実験ですよ。あらゆる死因を精査して、最後に残った可能性が霊長の終わりなのですから」


「それはつまり自分たちも死ぬって事か」


「無論ですとも。死とはこの世の最後の結果。あらゆる存在が行き着く終着点に他ならない」


「難しい話は分からないが……帝都民が笑って過ごしているだけで、今の俺は笑えねえ」


「なので鏖殺しましょう。一人も例外なく。苦しみながら死んでいただきましょう」


「そのために――を集めろと」


「それこそ難しい話ではないはずです」


「理屈はわかるが」


「多くを集めるほど苦しんで死ぬ帝都民は増えますよ」


「この際お前が何を考えているかはどうでもいい。だがオヤジの死にケジメはつける」


 帝国の民など全員死んでしまえ。俺を救ってくれたオヤジを否定する人間は誰一人として生きることを許さねえ。













※――――――――――――――※


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