第39話:紅茶のひと時


「いらっしゃいませ。お客様」


 ニコニコ笑顔で接客をする。それは俺が行員に求める最低限のスキルだ。


「あの、すみません。アーゾル様」


 オズオズとイゲムントが声をかけてくる。


「どうかしたか?」


 最近は俺はバーングレイス帝国の方に顔を出している。特に理由がない……わけでもないか。単純に大国だけあって、物品の揃いが大きい。オールゴール王国が小国というわけではないのだが、バーングレイス帝国の市場は痒い所に手が届く。


「…………ウマウマ」


 ルミナスもバーングレイス帝国のクリームパンが気に入ったらしく、今のトレンドらしい。その二国間の調整をしているのはイゲムントであり、彼は和風ワープを用いて、ひっきりなしに跳んでいる。こういうとき、和風ワープの使い手は大変だ。俺はあくまでルミナスの手を煩わせないためにイゲムントに和風ワープを教えただけなのだが、それは俺だけの秘密ということで。


「ヴォイドマネーが増えすぎております。行員に給料を払っても追いつかないレベルでして」


「わかってた事だろ」


 そもそもイゲムント自身がアーカーバンクの将来性を買って、投資を申し出てきたのだ。俺的にはヴォイドマネーさえ押さえていれば、そこから発生する物理的利益に関してはイゲムントに投げ渡している。ギルメートもそれでいいと言っているし、イゲムントの給料はそこから渡してもいる。


「いえ、しかし、このままでは」


「好き勝手にはしないようにな。あくまでお客様第一であれば、俺から言うことはそんなにない」


「承知しました。行くところまで言ってよろしいのですね?」


「ゴー」


「ではわしは金勘定に戻ります」


「少しは休んでくれよ? 今のところイゲムントは頼りにしてんだから」


「ギルメート様のカードがあれば、最悪の事態には陥りませんよ。わしに出来ることはクレーマーの対応ですな」


「まぁ……たしかに」


 俺にも言えることだ。そもそもギルメートのガーネット演算が高度過ぎてやることが全然ない。


「では。何かありましたれば、すぐにお呼びください」


「お疲れ~」


 ヒラヒラと手を振る。さてそうすると。俺的にも暇を持て余す。


「ルミナス」


「…………何?」


「市場に出るか」


「…………ウェルカム」


 彼女としても好都合らしい。どうせだから帝都の美味しいカフェでも探すか。最近は銀行のカフェテラスのコーヒーが人気だが、そればっかり飲んでいてもな。


「紅茶の美味しいところってわかるか?」


 果実を買って、その様に商人に聞く。既に市場にもキャッシュカードは広まっているらしく、清算はカードで出来た。二百円ほど買い物をして、ついでに喫茶店について聞く。


「じゃあそこを少し行ったところのヘテロクロミアとかいい感じだぜ」


「ヘテロ……ね」


 言われて出向く。カランカランとドアベルが鳴り、俺は店内に入った。もちろんルミナスも。


「いらっしゃいませ」


 店員は渋いおじ様で、ちょっといいかなと思ってしまう。着ている服もフォーマルだし、店内の静謐な空気ともマッチしている。


「お客様。初めてで?」


「美味しいお茶を飲めるところ聞いて、ここに」


「…………ワクワク」


 ルミナスの瞳もキラキラしていた。


「ご注文を」


「紅茶とスコーンのセット。二人分」


「…………私は蜂蜜入りで」


 そういやエルフって糖尿病の心配はないのだろうか? 風は引いていないし。そもそも概念が意思を持って受肉した存在であるから、病気とは縁がないようにも思えるが。


「お受けしました」


 そうして丁寧に茶を淹れてくれるマスター。淹れ方が丁寧で、とても繊細だ。そうして出された茶を飲むと確かに美味しかった。


「ウマ……」


「…………美味」


 スコーンともマッチするし、これは中々。


「いえ。アーカーバンクのカフェに比べると」


「まぁあっちも美味しいが」


 一応安くない金を使って、高名な茶師を呼んでいる。


「コーヒー……でしたか? アレはとても高尚ですね」


「コーヒー。欲しいのか?」


「飲んで確信しました。アレは流行る」


 コーヒーが……ねぇ。基本的に苦い飲み物であるし、あまり流行るとは思えないんだが。


「お客様も味を知っていらっしゃるので?」


「というか。うちから供給しているし」


「お客様が……」


「なんなら、融通しようか?」


「可能ですか?」


「扱いに苦労すると思うが……」


 曳いて粉にするだけでも、相応の手間がかかる。フィルターはまだ文明として発展していないし。


「お願いできますか?」


「マスターが望むなら」


 別段俺はどうでもいいのだが。


「ではその様に。合言葉を決めておくか。コーヒーを望む茶師は他にもいるだろうし」


「ではなんと?」


「山吹色のお菓子です……と聞いてくれ。相応の代金を払ってくれればいいから。相手がお主も悪よのぉって言ったら契約成立ってことで」


「了解しました。おいしいコーヒーを淹れるよう務める所存です」


「実際に美味しいけどな。ここの紅茶は」


「…………スコーンも美味しい」


 ルミナスの肯定に嘘はない。


「ではコーヒーの件はお願いします。もしかしてアーカーバンクの関係者ですか?」


「関係者……ね」


「聞くほど興味があるわけではないのですが」


「そこそこかな」


 ひけらかすのも、それはそれで違って。


「まぁいい場所だよ。ここは」


「お客様に気に入ってもらうのが、何よりの報酬でございます」


「また来ていい?」


「お待ち申し上げておりますよ」


 じゃ、こっちもコーヒーを用意しないとなぁ。


「…………ごちそうさまでした」


 紅茶を飲んだルミナスも、御機嫌と言ってよかった。さてそうすると、後は市場にコーヒーを出回らせることだけだが。それも可能かどうかと言えば可能と言え。実際にどれだけ需要があるのだろう。あの苦い飲み物って。













※――――――――――――――※


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