EP.16 異常事態と親子丼

「うーん、やっぱり美味しいね。さっすがアリアだよ」

「そう言ってくれたらお母さんも喜ぶよー。あれからお母さん、ライくんにゾッコンだし」

「ミーリーアー?」

「げっ、お母さん!」


 ミリアちゃんの後ろに仁王立ちするアリア。

 笑顔だけど眉がピクピクしている。


 ちなみに訂正すると別にアリアは僕にゾッコンじゃないよ。

 積極的にガツガツ行く肉食タイプだから勘違いしてるのかもしれないけど、あくまで仄かな恋心なんだよね。

 どっちかというとミリアちゃんの方が僕への好感度高いよね。


「余計なことを言うんじゃありません。ほらお仕事しなさい」

「はーい」


 アリアはグイっと顔を近づけ、耳元で囁いた。


「それでライくん、よければ今夜、私の部屋に来ないかしら」

「……お母さん? ちょっと展開早くない?」


 ずいぶんと積極的だね……。

 ミリアにも呆れられているよ。


「だって、ミリアにバラされちゃったんだもん」


 だもんて。

 まあ、ミリアがバラす前から気づいてたけどね?

 名前呼び……それも呼び捨てにする様に言われた上で物理的な距離感も急激に縮まったのに気付かない訳が無い。


 後僕の頭の上に胸乗せるの止めてね?

 絞るよ?

 僕の理性にも限界あるんだから。


 ここで勘のいい人は仄かな恋心で、夜のお誘い!?

 と思うかもしれないけどアリアはかなりの肉食だからね。

 本当に僕にゾッコンだったら問答無用で薬盛られて逆レされてるからね。

 されてないってことはまだ仄かな恋心止まりだ。


 これアリアがシングルマザーなの逆レして逃げられたからでは?

 ライは訝しんだ。

 まあただの憶測だし口に出す気はないけど。

 普通に夫が最低だった可能性もあるし。


 まあ、万が一逆レされても僕が勝つから問題ないけど。

 夜の強さで僕が負けることはあり得ない。

 21人同時に抱き潰してもまだまだ余裕があるからね。

 僕クラスメイト以外からの学校でのあだ名淫魔インキュバス呼ばわりだよ?

 酷くない?

 あんまり強く否定は出来ないんだけどさ。


「それじゃあ今夜、よろしくね? アリア」

「はい♡」


 彼女は満面の笑みを浮かべた。

 うーん、可愛い。

 これで僕にゾッコンじゃないのバグでしょ。




―――




 今日はギルドマスターに呼び出されていた。

 何やら指名依頼があるらしい。

 ヘレンに2階の執務室まで案内された。


「シリアル平原の調査?」

「ああ、最近魔物の出現率が増加している上に、魔物のランクも高くなってきている。君のアイドル活動によるバフのお陰で今は目立った被害はないが……それも時間の問題だろう」

「またこの前の小鬼之王ゴブリンキングみたいに誰かの悪意によるもの?」

「それを調査するのが君の仕事だよ、ライ」

「分かったよ」


 僕は早速平原に向かった。


「『探知サーチ』」


 魔力を薄く広げるイメージで放出していく。


「確かに数が多い……」


 普段の3倍くらいに増えてる。

 しかもどれもランクが高い。

 大鬼族オーガとか水晶蟻クリスタル・アントとか、CからBランクの魔物までいるし。

 そもそもこの地域に出る魔物じゃない。

 生態系滅茶苦茶になっちゃってる。


「とりあえず間引くか……」


 このままじゃ最悪死人が出かねない。

 いや、元々魔物との戦いなんてそんなものだけどね。

 ここまで異常が出てると流石に不味い。

 ほら、今も魔物に追われてる魔力反応がいくつかある。


 ──性質付与、槍使いランサー


「穿て、『大神穿つ回帰の槍グングニル』」


 全力でぶん投げると、槍は凄まじい速度で轟音を鳴らしながら飛んでいった。

 宿りしスキルの名は『魔術極めし叡智の大神オーディン』。

 その効果は回帰と必中。

 投げたら目標に必ず命中し、担い手の元に戻ってくる。


 人間を追いかけてる魔物の心臓を目標にしたから、魔物をひとしきり殺し終わったらそのうち戻って来るだろう。

 本来なら複数を同時に標的にするなんて使い方は出来ないけど、『探知サーチ』で広げた魔力を利用してマーキングしておいた。

 Bランクまでの魔物ならこれでなんとかなるだろう。

 仕留めきれなくても、逃げ回ってる冒険者でも逃げ切れる程度には弱らせれるだろうし。

 小鬼之王ゴブリンキング討伐で魂格レベルもだいぶ上がったからね。

 今なら1人でも小鬼之王ゴブリンキングを討伐出来る。


「あれ?」


 近くに魔力反応?

 姿は見えない……気配遮断かな?

 狙いは……僕か。


 さっきからうなじがピリッとして嫌だなぁと思ってたけど、これ殺気かぁ。

 暗殺とかかな?

 うーん、誰だろう。

 暗殺者に狙われるようなことはした覚えがないんだけど。

 あっ、もしかして教団関係かな。

 教団が関わってる小鬼之王ゴブリンキングを討伐しちゃったから暗殺者が送られてきたとか?

 でも『探知サーチ』に引っかかってる以上、大した技量はなさそうだ。


 えーっと、とりあえず人数は4人、場所は把握出来た。

 面倒だしさっさと捕まえちゃおうか。

 そんなに強くなさそうだし。


「『泥濘縛沼マッド・スワンプ』」


 地面に手をつき、魔術を行使する。

 その瞬間、自身を中心として円形の範囲の地面がぬかるみ、泥沼と化した。

 沼は一瞬で暗殺者たちの足元まで広がり、逃げる間もなく膝元まで沈み込む。


「次はこれだ。『雷球サンダー・ボール』」


 真下に向けて雷魔術を放った。

 雷は泥沼を通しバチバチと音を立てて広がり、暗殺者たちを感電させる。


 これで全員気絶したかな。

 こんな簡単に捕らえれるなんて、やっぱり捨て石の下っ端なんだろうね。

 でも、なんで捨て石で僕を襲わせたんだろう。

 こいつらから情報が洩れる可能性が高いのに。

 なんの目的で?


「──は?」


 気づけば目の前に仮面を被った女性がいた。

 彼女が振りかざした短剣は、既に目前にまで迫っている。


「っ! 『回避』!」


 瞬間的に魔力を放出し自身を強化した。

 戦技と組み合わせ全力で後退し、攻撃を回避する。


 あっぶないなぁ!

 危うく首斬り落とされる所だった。

 というか頸動脈斬られたし。

 咄嗟に水魔術で血の流れを制御してなければ死んでたよ。

 というか魔術が解除されたらすぐ死ぬし。

 無詠唱で魔術使えてよかったぁ。


「はぁ! 死ね!」

「無駄だよ」


 次々と繰り出される技の数々をいなしていく。

 彼女は暗殺者。

 不意討ちで殺せなかった以上、僕には勝てない。

 ハーレンから体術も習ったからね。

 例え槍がなくても、正面戦闘で暗殺者に負ける道理はないのだ。


 まあハーレンの体術はあの体格に最適化されてるから僕が使うとちょっとキツイんだけど。

 槍メインで鍛えてたから体術までは僕の体格に最適化出来ていなかったのだ。

 このくらいなら闘気で何とか誤魔化せる範囲内だけどね。


傷を閉じよschließe Wunden、『快癒リカバリー』」


 攻撃を回避するのと並行で治癒魔術を行使した。

 頸の傷口がみるみる塞がり、傷跡1つ残らず完治する。


「くっ! 放せ! ごふっ!?」


 彼女の両腕を掴み、そのままドロップキックを決める。

 腹を蹴られた彼女は唾を飛ばしながら白目を向いて気絶した。


「念のため、『麻痺パラライズ』」


 これなら気絶した振りをしてても大丈夫だろう。

 さてと、全員縛り上げて尋問するか。


 そう思って彼女に触れると、あることに気づいた。

 肌が冷たい。

 それどころか、全くと言っていいほど心音がしなかった。


「全員死んでる……?」


 自害……いや、それは無理な筈だ。

 指一本動かせないように麻痺させたから。

 となると遠隔で殺した?

 情報漏洩を防ぐ為に?


 この魔力の残り香、呪い系の魔術か。

 うーん、流石に発動済みだと細かいところまで解析するのは無理だね。

 これが心臓にかかった呪いであることは理解できたけど、それ以上はさっぱりだ。


「っと、槍も戻って来たのか」


 ノールックでこちらに飛んできた槍を掴んだ。

 うん、無事に冒険者たちも逃げれたみたいだね。

 とりあえずこの死体持って帰るか。

 ずた袋にでも詰めとけばいいよね。


 ギルドに帰り、ヘレンの案内の元執務室に向かった。


「やっぱり魔物多いね。ある程度間引いたけど、正直、次の日には戻ってそうだよ」

「ふむ……やはりそうか」

「あ、それと教団の暗殺者に襲われたよ」

「なにっ!?」


 ギルドマスターの顔が驚愕に染まる。

 この反応は……暗殺者に襲われたことそのものより、それをサラッと言ったことに驚いてるね。


「情報漏洩を防ぐ為か呪いで死んじゃったけど、死体はあるから。この袋に詰めてるから、調べるのはよろしく」

「ああ、了解した。これからも継続的に調査を頼む」


 よし、宿屋に帰るぞぅ。

 アリアたちが待っている。

 今日のご飯は何かなぁ。


「ただいまー!」

「おかえりライ!」

「おかえりなさい」

「今日の日替わりディナーは何かな?」

「今日は鶏の揚げ物だよ! 唐揚げとは違うから楽しみにしてね!」


 おぉ……。

 これは……!


「とり天だぁ!」

「えっ、知ってるの?」

「もちろん! 僕の故郷の料理だからね」


 こっちにもとり天あったんだね。


「うん! おいしい! フワフワサクサク!」


 元の世界とは味付けがちょっと違うけど、これはこれであり。

 お米が欲しくなる。

 炊きたての、熱々ご飯と一緒に食べたい。

 この世界、米が広まってないんだよねぇ。

 異世界人がこの世界に来るたびに広めようとするらしいけど、流通の関係で全然広まらないらしい。

 全くないわけではないけど、こういう宿屋なんかにあるのは稀だそうだ。

 流石に僕のワガママで米を仕入れてもらう訳にはいかないしね。


「おかわりください!」

「はい、どうぞ」


 おかわりもバクバクと食べていく。


「よく食べるねー。お母さんみたい」

「ミリアちゃん、そういうこと言うとまた──」

「ミーリーアー?」


 ほらぁ。

 ミリアちゃんは懲りないなぁ。

 アリアは地獄耳なんだから発言には気をつけないと。


「ライくん? 何か失礼なこと考えてない?」


 女の勘ってすごいよね。

 僕の直感も大概だけど。


「イヤだなぁ。アリアを早く食べたいなぁって思ってるよ」

「もう、ライくんたら」


 嘘はついてない。

 アリアを早く食べたいっていうのは本当だし。

 距離感近いから理性がどんどん削られていくんだよね。


「夜、楽しみにしてるから」


 そしてその日の夜。

 部屋でベッドに寝っ転がっていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


「入っていいよ」


 扉が開く。

 そこには、淫靡な雰囲気を醸し出している、ネグリジェ姿のアリアと、もじもじと恥ずかしそうに顔を真っ赤にした、下着姿のミリアちゃんがいた。


「ライくん♡ 娘も一緒に食べてくださいな♡」

「あ、あの……私も、お、お願い、ライくん」


 ほうほう。

 なるほど、親子丼ね。

 ミリアちゃんまで夜這いに来るとは思わなかったけど……よくよく考えたらアリアの娘だしね。

 血の繋がりか。

 とはいえ初体験で親子丼はレベルが高くないか?

 まあ食べるけど。


「じゃあ遠慮なく。いただきます♡」


 次の日、アリアとミリアちゃんはお肌がツヤツヤしていたらしい。




―――――




【真名】大神穿つ回帰の槍グングニル

【武器種】神槍

【能力】

魔術極めし叡智の大神オーディン

*投擲時装備者の元に回帰する。

*投擲時対象に必中する。

*ルーン魔術を使用可能になる。

*装備者に刺している間ルーン魔術を魔力消費なし、無詠唱で行使可能にする。

*水辺での魔術行使時出力を5倍にする。

*殺した相手の魂を収納する。

【説明】

北欧の大神オーディンが携えし必殺必中の神槍。

純白の穂先には数多のルーンが刻まれており、柄は世界樹の枝を彫ることにより造られている。

それは決して狙いを外さず、万物を穿ち貫き、所有者の元に回帰する。

その槍を掲げる時、味方に勝利を齎すと言う。

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異世界チートハーレム無双~クラス転移で1人だけ逸れた僕はチートスキル持ち。どんどん恋人が増えてハーレム王になったのでウハウハハーレムライフをエンジョイする。ついでに歌って踊って戦うアイドル目指します~ ランマ @ranma2560

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