Day2 風鈴
季節を過ぎた藤棚に吊るした風鈴は風もないのによく揺れて、重なる音は波のように拡がる。聞いていると水底に沈んだ時を思い出してこれはあまり良くなかった。
頭を振るって嫌な思い出を振り払い、じっと揺れる風鈴たちを見つめる。
ガラスに磁器、金属に陶器、折紙で作った風鈴も囁くような乾いた音を波の中に重ねていた。
それらを見つめながら、はあ、と溜息をつく。この中の一つに自分の魂があるという。それを自分の手で触れて震わせたら生き返れるというが、生まれてこの方風鈴というものに関わったことがない。あれらは全て幸せそうな誰かの家の軒先に揺れていたもので、それを外から眺めるだけの野良の身には自分のもの、という感覚がない。
──本当にあるのかな。神さまに馬鹿にされているだけじゃないのかな。
そんなことを考えている場合じゃない、とまた頭を振る。もう野良ではないと安心をくれたあの子の元へ帰らなければ。
うろうろと風鈴の下を歩いていると、大振りの風鈴の間に小さなどんぐりくらいの輝きが見えた。
驚いて大きな目を更に大きく開いて見つめ、間違いない、とジャンプする。
あの子がくれた、首輪の鈴がちりん、と鳴った。
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