第二話 悪魔との再会

 光が収まると、そこに立っていたのは、裕也の想像を絶する美女だった。


 長い紫色の髪を風になびかせ、黒い革のビスチェが豊満な胸を強調している。腰はくびれ、太ももは健康的に肉感的で、まさにボンキュッボンという言葉がぴったりの体型だった。頭には小さな角が左右に二本生え、背中からは蝙蝠のような黒い翼が広がっている。


「あ、悪魔、なのか……」


 裕也は床に座り込んだまま、呆然と見上げた。


「あら?」


 女悪魔は裕也を見下ろして、美しい眉をひそめる。


「また、お前か」

「また…?」

「昨晩のことを覚えていないのか? まったく、人間というのはアルコールが入ると記憶が曖昧になるのだな」


 女悪魔は溜息をついて、宙に浮かんだまま腕を組んだ。その仕草で胸がさらに強調され、裕也は思わず前のめりになる。目がその胸に釘付けになり――


「おっぱい…、この、おっぱいは――思い出した!」


 裕也の脳裏に鮮明な記憶が蘇ってきた――





 午前二時過ぎ、千鳥足でワンルームマンションの鍵を開けた裕也。ポケットに押し込んでいた魔法陣の紙が何かの拍子に床に落ちる。それを拾おうと怪我をした左手を伸ばして――


 突然部屋を満たす光。そして、現れた女悪魔。


「誰だぁ…?」


 酔っぱらった裕也は、悪魔の姿を見て目を丸くする。しかし、アルコールが思考を鈍らせていた。


「コスプレの……お姉さん?」

「コスプレではない。私は悪魔のリリスだ!」

「えー、でも角とか翼とか、すごいクオリティですね。どこの業者さんですか?」


 リリスと名乗った女悪魔は、明らかに苛立った表情を浮かべた。


「業者ではない。私は本物の悪魔だ! お前が呼び出したんだろう! さあ、願いを言え!!」

「願い?」


 裕也は首をかしげた。そして、にやにやと笑う。


「あー、そういうプレイですね。分かります分かります」

「プレイではない!」

「でも、お姉さん、すっごくスタイルいいですよね」


 裕也は悪魔の豊満な胸を見つめ、ふらつきながら近づいていく。


「特に、そのおっぱい……」

「近づくな、酔っぱらい!」

「一緒に気持ちいいことしませんかぁ?」

「何を言っている! 私は願いを叶えに来たのだ!」

「じゃあ、僕の願いを叶えてください」


 裕也は突然、リリスの胸に両手を伸ばした。


「このおっぱいが欲しい!」

「きゃー! 何をする!」


 悲鳴を上げるリリスにかまわずに、裕也はその豊かな胸を両手で掴んだまま、こう言った。


「立派なおっぱい、いいなぁ…、欲しいなぁ……」


 その言葉を聞いた途端、リリスの顔がパッと閃く。


「おお、なるほど、わかった。おっぱ、いや、この立派な胸が欲しいんだな。――お前の願い『この胸が欲しい』……確かに聞き遂げた!」


 リリスがパチンと指を鳴らす。次の瞬間、世界が闇に包まれた。


「うえ? なに、なんだ? あああぁあぁぁーーーっ!」


 そして、裕也の意識も闇へと落ち込んでいった――





「あっ…、全部思い出したぁ……」


 裕也は頭を抱えて呻いた。自分の愚行が恥ずかしくて仕方がない。


「酔っぱらっていたとはいえ、最低でした。すみません」

「まあ、人間のオスというのはそんなものだな」


 リリスは意外にもあっさりと許してくれた。


「それより、どうだ? 私の力を実感できただろう? 本物の悪魔だと認識できたか?」

「それはもう、嫌ってほど……」


 裕也は自分の胸を見下ろした。シャツの上からでも分かる膨らみが、悪魔の力を物語っている。


「私の実力なら、もっと大きな願いも叶えられるぞ」


 リリスは誘惑するような妖艶な笑みを浮かべた。


「富、名声、権力、美貌、知識……何でも好きなものを与えてやろう」

「いや、結構です。それより、この胸を元に戻してくれ!」

「戻すのか? せっかく立派な胸を手に入れたのに」

「男に胸は必要ない! お願いだ!」


 リリスは少し考え込んだ後、にやりと笑った。


「戻すことはできる。だが、代償は貰うぞ」

「代償?」

「寿命を十年ほどもらおうか」

「じゅ、十年っ――!?」


 裕也は愕然とした。


「昨晩の願いで、すでにお前の寿命は十年減っている。それを元に戻すなら、当然さらに十年だ」

「そ、そんな……」

「嫌なら、そのまま胸を持ったまま生きていくがいい」


 リリスは肩をすくめた。


「つまり、俺はこの胸のまま一生生きていくか、寿命を更に十年失うかの二択ということか?」

「そういうことだな」


 リリスは楽しそうに笑う。が、裕也の顔は青ざめ、絶望に満ちていた。


「どうする? 決めるのはお前だ」

「少し考えさせてくれ……」


 裕也は頭を抱えた。どちらを選んでも、幸福にはほど遠い。


「すぐ決めることはないは。その魔法陣があれば、私はいつでも呼び出せる」


 リリスは翼を広げた。


「血を垂らせば、いつでも現れる。呼び出すだけならアフターサービスで、タダだ。決心がついたら呼ぶがいい」

「待って――!」


 裕也は慌てて手を伸ばしたが、リリスは光と共に消えてしまった。

 後に残されたのは、魔法陣の描かれた紙と、現実離れした胸を持った自分だけだった。


「どうすれば……」


 裕也は天井を見上げて、長く息を吐き出した。


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