7-2

 二組の催しものはミスター&ミス一年。

 名前を呼ばれた上位五名がステージに上がるのだ。

 周とアオイくん、そして五番目に呼ばれたのが加瀬くんだった。

 自分の周りにいる人間の美形の多さに改めて感服した。

 票の多い人が最後に呼ばれるのだけど、加瀬くんは五位、最初に呼ばれてちょっと恥ずかしそうに立っていた。

 五位だって十分すごいのにね。

 最後に残った二名は周とアオイくん、ドキドキしながらその動向を見守っていた。

 アオイくん、私なら断然アオイくん!!

 

「今年のミスター一年は秋山周くんです」


 皆の拍手にもキャーという声援にも一切手も振ることもなく表情一つ変えずに、ぶっきらぼうに突っ立ってる周。

 一瞬私を見てニッと笑ってくれたアオイくん。

 ……絶対アオイくんの方が周よりモテるはずなのに何で?

 観賞用イケメンはある意味全員に平等だからかな?

赤いマントと手作り王冠を頭に載せられて並んで立ってる周は確かに性格を知らなければ眩しい。

 あ、そっか、周ってやはりイケメンだったんだ、と改めて思った。



 ステージの横ではドラムセットを運んでくれる二組有志たちと百瀬くんと一緒にスタンバって、まだステージにいる加瀬くんはこっちを伺ってソワソワしている。

 なぜかアオイくんと周もこっちをチラチラ見ていた。


「次は二組です、用意をお願いします」


司会の声に促されて用意に動き出す。

 袖ですれ違う時アオイくんは小さな声で「頑張れ」と笑ってくれた。

 周は「クソみてえなライブすんじゃねえぞ」と私を睨みながらすれ違う。

 久々にかけられた言葉は酷かったけどそれでも嬉しくて「うん!」と返事した。


 そうだね、恥ずかしくない演奏したい、周やアオイくんに顔向けできないのは嫌だ。

 だって、TAM’sの曲だもんね、大事な曲を使うんだから。


 皆に手伝ってもらいながら、セッティングしたドラムセットをチューニングした。

 ざわめく人の声にふと顔を上げて後悔。

 ステージ前には一年生徒全員じゃないかってぐらい総立ちで詰め寄っていて、その瞬間忘れていた緊張を思い出してしまった。

 ヤバイ、スティックを握る手が震えている……。

 必死にその手の震えを抑え込もうとしていると、目の前でギターの音が聞こえた。

 顔を上げると加瀬くんが微笑んでいて。


「片山さん!!」


 声をかけられて、背筋が伸びる。


「片山さんなら、やれる、絶対!!」


 そう言って私にピースサインと笑顔。

 途端にあの時の光景が甦って、少しずつ手の震えが収まった。

 うん、大丈夫、私やれるよ!

 強く頷いて笑顔を返して、Na na naから始まる即席MKKの最初で最後のステージが始まった。


 Na na naは少しアレンジを加えた。

 バラードだったのを少しだけアップテンポに。

 切ない歌詞がその分幾らか和らいだ印象を与えて、最初は皆が知っているNa na naではなくて戸惑ってたのは一瞬だけ。

 すぐに気づいてノってくれて、私は自ずと体育館の隅の方でアオイくんや周の姿を探してしまう。

 周は無表情ながら、ステージをずっと見ていてくれて、アオイくんは私と目が合うと気付かれないように微笑んでくれる。

 二人を見ると安心してしまうのは、私がTAM’sの一人だった時があるからだ。


 その後のシガレットのラブソングは加瀬くんの色気が駄々洩れてしまっていた。

 体育館のあちこちで「拓海ー!! かっこいい」という悲鳴に似たような声。

 その声に反応して苦笑しながら私を振り返った加瀬くんに私も笑ってしまう。

 うん、でもかっこいい、とっても。

 百瀬くんは何で加瀬くんだけって顔していたけれどね。


「最後の曲になります、smile」

 

 あの日、学祭の日にお披露目した最初で最後のsmile。

 それを皆が覚えていてくれてたのがすっごく嬉しかった。

 この曲をもう一度自分が演奏できるなんて思わなかった。

 加瀬くんが歌うsmileをこうして後ろで聴けるなんてもう二度とないって思ってたから。

 やっぱり加瀬くんは、かっこいい。

 ステージの上では更にキラキラが増す。

 私は、彼のこの姿に恋をしたのだと思う。

 そして今は大事な仲間、心からそう思った――。


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