7-3
その日の放課後だった。
一人、また一人と教室を後にする中、周とアオイくんが加瀬くんの元にやってくる。
最近、MKKの練習で加瀬くんは忙しかったから、久々の練習に行くためのようだ。
帰り支度を終えた私も帰ろうと立ち上がると、
「あ、良かった! 片山さん、まだ残ってて」
先に教室を出て行ったはずの百瀬くんが戻ってきた。
「なにか、あった?」
もう、バンドも終わったはずだし、と首をかしげる私に、
「MKK終わってからにしようと思ってて。実は、俺らのバンドのドラムがね、今年卒業でして」
「はい?」
「片山さん、入ってくれない? うちのバンドに」
「え? えええええ?」
驚く私の声に被るように、隣の方からバキバキと指を鳴らす音が聞こえてきた。
「待てよ、百瀬。お前ら、次の一年生にドラムのツテがあるって言ってたじゃん」
周が百瀬くんを睨み落としている。
「その予定だったんだけどさ。落ちたって」
あははと失笑している百瀬くんに、加瀬くんがなぜか不機嫌そうに舌打ちをした。
アオイくんも、無表情で百瀬くんを見ている。
三人のただならぬ様子に気づき、タジタジとなった百瀬くんが私に向き直って、
「ま、待てよ、だってTAM’sは抜けたんだよね? 片山さん」
その問いにコクンと頷いたら、三人の冷たい視線が今度は私に降り注ぐ。
「だから、ごめんね、百瀬くん。私、もうバンドには」
その瞬間、百瀬くんが不機嫌そうにため息をつく。
「だって、楽しそうだったじゃん? 片山さん。バンドが嫌いになったわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど……せっかく声かけてくれたのにごめんね、百瀬くん。私、もうバンドは……。だから、誰か他にドラムできる子を探してくれないかな」
「でもなあ、うちのバンドのメンバーも皆、片山さんがいいって言ってるんだよ。一回でいいから一緒に演奏してみてくれない? それでも無理だってが言うならオレらも諦めがつくし」
頭を下げる百瀬くんの言葉に、あの日の加瀬くんが重なってしまう。
『一回だけセッションしてみん? オレらとセッションしてみて、それでどうしてもヤダ! やっぱ、無理って片山さんが言うならオレらも諦める! だから、一回だけ! お願い!』
「今日の演奏で、他のバンドも片山さんに声かけてくると思うんだ。誰も知らないバンドよか、俺なら一回一緒に組んでるしさあ」
どうしても、私が頷くまでは折れそうにない百瀬くん。
どう断ったら穏便に済むのか、と頭を悩ませる。
一度だけ、一緒に演奏して、それで断ればいいのだろうか?
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