7.冬と春の間の真実

7-1

 残るは今週の練習のみ、ああ、また今日もほぼ千円が消えていく。

 この三週間でいくらスタジオ代に飲み込まれていっただろう、全部お年玉からだけど。

 まだ今年が始まったばかりで良かった。これが年末ならば確実に出せない金額だったと思う。

 アオイくんはそんな私を心配して家で練習したら? と言ってくれたけど。

 周がまだ口を聞いてくれないのだ。多分ずっと怒ってる。

 それにアオイくんの前で加瀬くんや百瀬くんと練習してるのも何だか嫌で……。


「ほい、片山さん」


 百瀬くんに学校で渡された譜面はシガレットのラブソング、私も大好きな曲だ。


「これにするの?」


 そう尋ねると、うんうんと楽しそうに頷いてる。

 百瀬くんも好きなんだね。


「早速今日からだからね、目通しておいてよ」


 了解しました、と受け取って譜面を見ながら頭の中でリズムが流れ出す。

 曲も知ってるから、やりやすい。

 シガレットを好きになったのはTAM’sに居た時。

 三人が三人ともオススメだというので聞くようになって、私も一緒にハマってしまってた。

 そんなにまだメジャーではないけれど、バンドをやってる人たちの中では有名だし。


「お、新しい譜面?」


 いつの間にか教室に入ってきてたアオイくんが私の持ってるそれを覗き込む。


「いいよね、これ」

「うん、オレも好き」


と微笑み合ってたけれど。


「アオイくん、何か用事あったんじゃ」


 何でうちのクラスに来たんだろう?


「そうそう、海音ちゃんの顔を見に」


 誰にも聞こえないように囁くアオイくんに一瞬にして真っ赤になってしまう。

 突然、何を言い出すの!?


「ダメだ、素直すぎて可愛い」


 アオイくんも赤くなりながらもクスクス笑ってる。


「また数学貸してほしくて来たの」

「あ、どうぞどうぞ」


 恥ずかしくなって慌てて机から取り出してアオイくんに手渡す。


「ありがと、終わったらすぐ持ってくるね」

「いいよ、うちのクラス一限目で終わってるから明日でも」

「んじゃ練習終わったら返そうかな」


 それは、多分、今日の待ち合わせ。


「うん」


 笑って頷いて二人だけの約束をした。

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