3-2
一時限目を終え、廊下に出たらちょうど周が歩いていた。
とっさに声かけようとしたけれど、私の声に気づいてあの子たちの誰かがまた来るかもしれない。
そう思ったらすぐに周の後ろまで走って無言で制服の裾を掴んでいた。
突然引き留められて不機嫌そうに振り返った周は、私をギロリと見下ろした。
「何だよ、トイレ行こうとしてんのに」
「これ、アオイくんに『どうもありがとう』って返しておいてくれないかな」
渡そうとしてる現代文を
「だからオレはトイレ行くっつてんだろ、アオイなら呼んでやっから、自分で」
「やめて!!」
少し声が大きかったのかもしれない。
いつもよりも少しだけムキになっていたと思う。
そのいつもと違う何かは周に伝わってしまったかもしれない。
ため息をつきながら、仕方なさそうに私の手から教科書を受け取った周の目が、真実を突き止めようとしているみたいで、怖くて顔を背けた。
「何があった? アオイと何かあったのか?」
「ないよ、私も早くトイレ行きたかっただけで! ごめんね、周!」
逃げるようにトイレに駆け込んだ。
周にはもう気付かれたくない、いや周だけではなく、加瀬くんにもアオイくんにも。
重たい鉛を飲み込んだ気持ちで、時間が過ぎるのを待つ。
六時限目まで、誰とも話すことなく、長い長い一日をようやく終えたことに心の底から安堵した。
HR終了後、私が動くのを待ってくれている加瀬くんに、お願いごとをした。
今日は私、皆に頼んでばかりだな……。
「加瀬くん、あのね、実は」
一人の放課後はいつぶりだろうか?
調子が悪いから今日は練習休むね、と伝えたら、『わかった』と加瀬くんはそれ以上何も聞かずに了解してくれた。
今頃もう皆、練習してる頃かな?
お母さんに電話をして机周りを探してもらったけれど、やはり現代文はなかった。
なのでまずは教科書を買いに行く。
在庫がちょうどあったそうで、ホッとしてそれを受け取ってから、学校指定の上靴を買いに行った。
今日は大荷物、ジャージも教科書も電子辞書も学校にあるものは全部持って帰らないといけないからだ。
……でなきゃ、きっとまた無くなっちゃう。
ため息をつきながら重たい荷物を持っていると、足取りもどんどんどんどん重たくなってくる。
目の前の景色がぼやけて、慌てて目を擦った。
その日はバンドのグループSNSは鳴ることもなく、それもまた、少しだけ悲しい気持ちに追い打ちをかけた。
自分から一人になったくせに、寂しいなんて思っちゃだめなのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます