2-9

 期末テストが終わり、久しぶりの練習日。

 やっとやっとあの曲を皆で合わせられるのだ。

 自分が出来上がった余裕からか、嬉しくて仕方なかった。

 テスト勉強の合間、気付けば手足がリズム刻んでいたことも何度かあって、アオイくんと作り上げたそれを早く二人に聴いて欲しくて待ち遠しかったんだ。


「拓海、歌詞は出来上がった?」

「ん、まあ、ま、出来たには出来たんだけど」


 恥ずかしいよな、って笑う加瀬くん。

 早く聴いてみたい。どんな歌詞をつけたんだろうか?


「取り合えず合わせてみる?」


 アオイくんの笑顔に皆頷く。


「しょっぱなは、どうする? 静かに入るならギターだけ?」


 加瀬くんの提案に、


「ドラムだけ、がいいかもよ?」


 と、アオイくんが助け船を出してくれた。

 二人で考えたかっこいい出だし。ドラムと加瀬くんの歌声だけになる。


「やれる? 片山さん」

「う、うん」

「んじゃ、よろしくね」


 息を吸い込んで、静かに私のリズムで始まる出だし。

 そして大きなブレスと共に、耳に届いたのは加瀬くんの甘い歌声。


――ごめんねとさよならをあの日の君に届けたくて 今唄うよ


 響く低音ボイスが儚げで切なくなる、これはラブソングだ。

 ベースとギターが加瀬くんの声を大事にするように優しく入ってくる。

 皆で加瀬くんの創り出した世界観を壊さないように、どうしたらこの曲が輝くのかを考えながら音を合わせる。

 私も途中で少しだけアレンジを加え、サビへと繋がる部分で盛り上がりを入れてみた。

 それに気付いてくれたアオイくんが、目配せして微笑んでくれたことに安心しながら、加瀬くんの歌に聴き入ってしまう。


――ねえ どれだけ泣かせたのだろう?

――幼かった僕ら 今ならできたことたくさんあるのに 

――消えてしまった君に 

――ごめんねとさよならと いつかまたね 君に届いてる?



 泣き出してしまいそうなほどの切ない歌詞を歌い上げる加瀬くんの背中を見つめた。

 今、どんな表情で今唄ってるんだろうか?

 まるで泣いているみたいに見える背中を見つめたまま、曲の終りを静かに優しくシンバルの音で締める。


「……、めっちゃいいじゃん」


 周が余韻に浸りながら小さく呟いた。


「拓海、何? オマエ、天才なの!?」


 興奮したように笑いながら加瀬くんの頭をグリグリしている周。

 私は感動で泣きそうになるのをぐっと堪えてアオイくんにやったね、って目配せしようとしたんだけど。

 当のアオイくんの視線は加瀬くんにあって、何か言いたげな表情をしているのを見た。


「つうかさ、拓海もめっちゃいい歌詞つけてきたんだけど。何だよ、お前らリズム隊! すげえ息ピッタリじゃん!」


 突然の周の誉め言葉に私は固まる。

 それはそう。ピッタリなはず、だって一緒に作ったんだもの。

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