2-10
「あー、実は海音ちゃんと二人で作ってました~!」
アオイくんがあっけらかんとしてケラケラ笑うと、「は?」という低い声が周の口から洩れた。
瞬間、真顔になった周は、私とアオイくんを見比べる。
「……何で呼んでくれなかった? アオイ」
加瀬くんも少しムッとしたような顔をしている。
やっぱり皆にも声をかけた方が良かったんだ。
「あ、あのね、私が」
アオイくんは同情して助けてくれただけ、と弁解をしようとする私を遮るように、
「あのさオレが海音ちゃんを無理やり誘ったの。煮詰まってるなら、一緒に考えないか、って。悪かったよ、お前らに声かけないで」
と、皆を諭してくれる。
アオイくんのごめんな、に二人は仕方なく、それでも納得してくれたけれど。
「まあ、いいけどさ。次からは絶対声かけろよ? あとさ、大丈夫だった? アオイに襲われてない? 片山さん」
「え? あ、いえ、大丈夫、きっと、えっと」
あの時のことを想い出し、動揺した挙句、片言のようになった私を見て、
「え?」
と、驚き目を丸くした加瀬くん。
そして、どこからともなく、誰かの指がボキボキッと鳴った音。
多分、周の方から聞こえた気がする……。
「違うの。アオイくんがね、私が隙がありすぎるから襲われないように気をつけろ! って言ってくれたの」
「そう、特に拓海には気をつけるようにってね」
「つうかオレ、襲ったりなんかしないからね、片山さん! ふざけんなよ、アオイ!」
「まあ、アオイに限って、好き好んで海音を襲うようなことしねえだろ、選び放題なのに」
周の言い方が酷い! 腹が立つけれど、取り合えずはこれでいいよね。
実際襲われたわけじゃないし、とアオイくんをそっと見たら、私に視線を合わせて苦笑していた。
さっき皆で集まらなかった理由を全部アオイくんが庇ってくれたから、からかわれて押し倒されたことは黙っておこう。
「片山さん、難しかった? 譜面作るの」
「難しかったけど、楽しかったよ。加瀬くんのこの曲、私とっても大好きだから」
「ありがと」
照れたように口元を覆う加瀬くん。
「で、拓海、曲名は何にすんの?」
「ん~、何にすっかね、……Na na na、かな」
あ、そうだ、曲の途中でも何度かナナナって歌ってたもんね。
なるほど、と頷いた私や周をよそに、アオイくんの表情からは笑顔が消えていた。
「本当にそれでいいの? 拓海」
またさっきのように加瀬くんに何かを問いかけるような顔をしたアオイくん。
「ま、いいかな、って」
答える加瀬くんの笑顔にも違和感。
二人の中にある意味深な感じが私にはまるでわからない。
でもアオイくんだけはわかってるのだろう、小さなため息をついた。
「拓海がいいのなら、構わないけどさ」
アオイくんはそれ以上何も言わなかった。
帰りのバス、後ろの四人掛けに少し離れて座る周に話しかけた。
「ねえ、周。何かあの二人変じゃなかった?」
そう尋ねてみたら、なぜか睨まれた。
怖い! 何で睨んでるの?
久々に見た、周のその顔。般若みたいな顔!
中学校の時に私がヘマをした時によく見せたその顔が怖くて、ヒッと息を止めて視線を窓の外へ視線を外す。
「オマエさ、アオイだからいいけどな? 男と二人とか、ないからな? 普通」
周が怒っているのはアオイくんと二人で曲を作ったことに対して?
さっき終わったはずなのに~!
「オマエみたいなのでもいいやって、襲ってくる男もいるかもしんねえぞ」
「……いるかな?」
早く終わらせようと誤魔化すように笑った私の頭を、周はコブシでグリグリと押しつぶしてくる。痛い痛い、やめてえええええ!
涙目で痛がる私を見て周は気が済んだのかやっと頭を解放してくれて。
「今度から気ィつけろよ」
最後にもう一度念を込めるようにとっても痛いデコピンをされた。
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