第44話:英雄凱旋
ダンジョン八十三階層を成しえた都市最強の大規模パーティ『アヴァロン』のリーダーと幹部二名が、ダンジョンから出るやいなや馬車に乗せられ、中央区へと続く大通りを歩いた方がマシな位にゆっくりと運ばれていた。
英雄の凱旋という事で顔を見せる必要がある為に天井も壁も無く、派手な長椅子に車輪が付いただけの荷台に帰還したばかりのボロボロの三人が揺られる些かシュールな光景なのだが、人々は歓喜に沸いた。
「――にしても、到達階層を更新する度にこうも盛り上がるのも、面倒ですわねぇー。早くお風呂に入りたいのですけれど」
「揃いも揃って暇なんじゃろ。ワシは今すぐ酒を飲みたいわい」
外見は二〇程に見えるエルフの女性、リリルア・エルウェイと狭い洞窟の様な環境に住むドワーフの背が低くも筋肉質な髭を蓄えた男性、ギルヴァード・アルソンが大衆に笑みを向けながら悪態をつく。
「そう言わないでくれ、二人とも。こういうのも俺達の仕事なんだ」
二十歳を少し過ぎた程の青年、アレックス・ヴァンフォートが苦笑交じりに窘めた。
「分かってはいるのですけれど……。何も地上に戻るなり、そのままというのは私達への配慮がないのではなくて?」
「……それについては、同感かな」
正直、英雄と呼ばれるアレックスでもダンジョン遠征の直後に歩みの遅い馬車に揺られるのは勘弁して欲しいと思う。
しかし、と彼は、
「それだけ俺達の活躍が注目されているという事さ。吉報は直ぐに聞きたいものだろ?」
「まぁ、ギルドの連中に良い様に使われているとも言えるがのぉ。ワシらの帰還を祭り囃子にしたいのじゃろーて。毎度の事ながらそこらの店が繁盛しとるわい。今乗ってるコレは、ていのいい神輿ちゅう訳だ」
「エルフの私が見世物とか冗談じゃないですわー」
アレックスがもっとも信頼する初期メンバーで始めたパーティは、人々の希望である物語に出てくる様な英雄を目指していた。
その目標は、一応は果たされていると言えるだろう。
「――英雄なんてそんなものだよ。けれど、やはり英雄は必要なんだ」
迷宮都市には多くの冒険者が集まり、利益を得る為の探索が結果としてダンジョンから魔物が出てこない為の防衛となっている。
都市の安全は冒険者が守っている訳だが、その維持は冒険者だけでは不可能だ。
身体を休ませる宿。傷を癒す薬品類。敵を倒す武器。日々の糧である食糧。
それらを担う人員が必要だ。
そして戦う力の無い彼らを魔物の巣窟の上にある都市に居続けて貰う為に相応の利益と安心感が必要となる。
商業ギルドが経済を、冒険者ギルドが安全を保証する事で支える側の生活が成り立っているのだ。
迷宮都市でギルドが英雄に求める仕事はダンジョン探索は勿論だが、何より重要視しているのが、象徴となる事。
『彼等が居るから安全だ。彼等がダンジョンを踏破していくから安泰だ』と。
アレックスが幼い頃に思い描いていた英雄像とは些か違うが、それでもその意義はあると感じていた。
歓声を浴びると改めてそう思う。
「ほら、二人も皆に手を振ってあげてくれ。笑顔でだよ」
「仕方ありませんわねー。あぁ、肩がバチクソいてぇですわー」
「歓声よりも、冷えたエールを樽でくれー」
「ははは」
民衆に笑顔で手を振りながら、悪態をつく仲間達にアレックスは小さく笑う。
自分も歓声に応えようと、立ち上がると不意に禍々しい魔力を感じた。
まるでダンジョンの下層に出現する魔物と対峙した様な圧迫感。
「皆、ここから離れ――!」
誰よりも早く、一瞬後に起こる惨状をアレックスが察して、叫んだ直後。
彼等の乗る馬車に赤黒い斬撃が飛来し、歓声が悲鳴に変わった。
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