第41話:お礼の気持ち

「――やっぱ、ここでもダメだったか」


 ギルド長から急かされるようにレオンとリゼッタはギルドを後にした後、彼等は様々な店が並ぶ商業区に訪れていた。


 一際大きな店構えの迷宮都市きっての名店である武器屋『強者たちの集い』から出たレオンは小さく溜息を溢した。


 デスナイトとの戦闘で破損した短剣の修繕を依頼したが、一流の職人たちから言わせれば、刀身の亀裂が大きく砕ける寸前だという。


 剣としては完全に死んでしまっているらしい。


「ここの方々でも無理というのであれば、他の鍛冶師でも難しいでしょう。私の固有スキルの触媒に出来ても、あと一度が限度かと……」


 隣のリゼッタが気遣う様に声をかけるが、レオンは軽く笑って肩を竦ませた。


「まぁ、仕方がないさ。寧ろ、ここまでもって最後に大仕事をしてくれたんだ。後はお守り替わりにしておくよ」


 長年共に旅をした故郷の孤児院の子供達から贈られた剣。それを失うのは身体の一部を失う様な感覚があったが、剣としての役割は十分に果たしてくれた。


 腰の短剣の柄を労う様に軽く触れる。


 僅かばかりの感傷を終え、レオンは顔を上げた。


「さて、折角の祝祭だ。替えの武器は改めて準備するとして、今日は色々見て回ろうか」





 今日にも都市最強パーティ『アヴァロン』を中心としたダンジョン到達階層更新の為の遠征組が今日にも帰還するとの事で、都市は普段以上に活気に溢れていた。


 繁忙時間には少し外れているが、どこの店にも人が入り賑わっている。


 大通りには出店が出ており、道すがら眺めるだけでも十分に楽しかった。


 商業区にある広場でも多くの出店や露店があり、その中の雑貨屋がレオンとリゼッタの気を惹いて足を止めさせる。


「よう、お二人さん! 冒険者の人かい? ダンジョン探索に役立つもんは無いが、それでも世界中の珍しい品々さ。是非。手に取っておくれ!」


 どことなく退屈そうだった店主の男性が、彼等に気付くと、営業スマイルで出迎えた。


 カウンターに並ぶのは、神話の幻獣を模った像。縞模様や淡い色合いの石が加工された指輪や首飾り。


 どこかの民族の呪具なのか動物の骨で出来たオブジェ。


 旅先で手当たり次第にかき集めて来た、と言わんばかりに統一性の無い品々だが、その中でもリゼッタの興味を惹いた物があった。


「コレは……細かい装飾ですね」


 女性の掌に収まるサイズの黄金色の楕円型。文字とも思える複雑な模様が彫られており、真ん中には切れ込みの様な線が入っていた。


 その端を摘まむと、スルリと抜ける。


 その中身は同じく楕円形で鈍く光る灰色だった。


「まさか、剣――とか言うんじゃないだろうな?」


 怪訝そうに眉を顰めるレオンに店主はパチン、と指を鳴らす。


「兄さん、正解だよ。コイツは『森人の小剣』さ。まぁ、剣と言っても刃も無いからただのお守りなんだけどね」


「森人……ではエルフの?」


 リゼッタの疑問に店主は、此処だと言わんばかりに、


「あぁ、不幸を斬り払う安全祈願のお守りさ。それに大切な人と離れる時には贈り物にするらしいよ。何でも、贈り方で意味が変わるとか――」


 例えば、と。


「剣と鞘を一緒に渡すと『もう会えない相手へのはなむけ』。剣だけを渡すと『帰ってくる事を願う』で鞘なら『いつか会いに行く』――それで、再会した時に剣を鞘に納めると――」


 順に折っていた指を四本目の途中で止めて、


「って感じだよ。どうだい、なかなか面白いだろ!」


 誤魔化したな、というレオンの視線から店主は顔を逸らして逃げた。


「それは素敵なお話ですね」


 エルフの文化に明るくないレオンにはその三つの意味も正しいか定かでは無いのだが、リゼッタが気に入ってる事は彼女の表情を見れば分かった。


「こういうのが好きなのか?」


「そうですね。細かい装飾も見事だと思いますが、想いを伝える為の贈り物というのはロマンティックだと思います」


 チラリと値段を見れば、他の商品よりも幾分高いがそれでも、今日のレオンのポケットマネーは潤沢だ。


 そして、店主からの“ほら、どうします兄さん?”という顔。


 そもそもエルフの工芸品は出回る事自体が珍しい。ソレも本物という確証は無いのだが、リゼッタは想いを馳せているようだった。


 レオンは少し考えて、


「それじゃ、ソレ貰えるかな」


「はい、毎度!」


「ぁ、いえ。そういう訳では――!」


 リゼッタがそのお守りを戻そうとする前に、レオンは店主に代金を渡して、購入を済ませた。


「構わないよ。エルフの工芸品は出回るのは珍しい、リゼも気に入ったんだろ?」


「まぁ……それはそうですが……」


「それに、不運を斬り払うっていうなら縁起も良いしな」


 レオンは小さく肩を竦ませる。


「――まぁ、日頃のお礼にするには安い位だから、欲しいものがあれば言ってくれ」


「いえ……それでしたら、コレで十分です」


 彼のどこか照れた様な苦笑にリゼッタはソワソワとした気持ちになりつつ、お守りを優しく手で包んだ。


「なはは! 初々しいね、さては付き合いたてかい?」


「い、いえ! そういう訳ではなく――!」


 リゼッタは店主の言葉に狼狽え、咄嗟に返したが途中でハッとして、咳払いで誤魔化した。


「そ、それでは他のお店も見て回りましょうか!」

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