菊池健2

「また来てるよ……」


 最近SNSのフレンド申請がやたらと多い。


 どれもこれも知らないやつらだ。


 俺のSNSデビューは結構遅い。


 高校入学と同時にSNSにアカウントを作った。


 周りの友達は中学の頃から既にSNSデビューしていたけど、俺はあんまり興味がなくて、高校になるまでアカウントを作ろうとすら思ってなかった。


 作ったきっかけは単純。人気者になりたかったから。


 最初は鍵アカにしていたわけじゃなく、普通にフォロワーもそこそこついて、フォロワーが増えていく度に嬉しいと感じていた。


 でも、ネット上の彼女、ネカノができて、

その彼女が四股もしていたのを知り、結局別れることになった時、「別れたくない」と言ってきた彼女にネトスト、ネットストーカーをされ、それだけじゃなく、悲劇のヒロインのように自分がどれだけ俺のことが好きなのかを方々に風潮された結果、俺が一方的に悪者として多くのフォロワーから攻撃されることになった。


 で、俺は逃げた。


 アカウントを消し、SNSから一時的に姿を消すことにした。

 

 半年くらいはSNSを避けてたけど、結局また誰かと繋がりたくなって鍵垢で転生。


 今の『KenKen』として細々と、だけどのめり込むこともなく、ネットって怖ぇんだなと思いながら、自分なりに適度に楽しんでるつもりだった。


 そう、「怖い」ところなんだと分かっていたつもりだったのに。


『KenKenの書き込みスクショして呟いたらさ、めっちゃバズり始めたー』


 急にネッ友の『Alice』からダイレクトメールが届いたのは、秋山まりの事件が起きてから二週間くらい経った時だった。


 最初は何をスクショされたのか分からなくて、気にもしなかったけど、それでフレンド申請が増えたのか? とだけは思ってた。


 でも、そのダイレクトメールを境にフレンド申請が更に増え始めたから、何かおかしいとさすがに気づき始めてた。


 でも「俺、知らないうちに面白いこと呟いてたかな?」としか思ってなかった。


「なぁ、お前のアカウント名、KenKenだったよな?」


 学校で小学校からの友達の村山が小声でそう聞いてきた。


 相互フォローはしてないけど、村山には俺のアカウントを教えている。


 リアルの友達の中では俺のアカウントを知ってるのは村山だけだった。


「そうだけど、どうしたよ?」


「……お前さ、今、自分がどんな立場にいるか分かってる?」


「俺、何かしたっけ?」


 そこまで言うと村山が無言でスマホの画面を見せてきた。


 それはAliceのアカウントで、表示回数が百万を超えていた。


 画像が貼られているその呟き、それが最初は何だか全く分からなかった。


「これが俺と何の関係あんのよ?」


「画像ちゃんと見てみろよ」


 画像を開いて見てみると、そこには記憶にまだ残っているやり取りの文字が見えた。


「は? 何これ? え?」


「お前、不用意に横山と町田先生のこと話したんだろ? 今じゃそれが異様に拡散されて、二人が付き合ってるだとか、共犯だとか無責任な書き込みが広まってるよ」


「え? それって俺のせいなん? 俺、そんなつもりなかったけど」


 そんなつもりは本当になかった。


 ただ、退屈してるやつらのためにちょっとだけ俺の知ってることを話した、それだけのこと。


 その後、それを見たフォロワー達が勝手に盛り上がって共犯説とか二人が出来てるんじゃないかとかを面白おかしくやり取りしていただけ。


「お前、そのことを否定しなかったろ?」


 確かに否定しなかった。何なら少し二人の関係を匂わせるようなことすら書いた。


 横山と町田に何か関係があるなんて思ってなかったけど、そう匂わせたら喜ぶだろうなって思って、どうせここだけの話だからって思って……。


「もうな、町田先生のことは特定されてるよ。顔写真までネットに流れ始めてる。横山のことはまだ特定されてないけど、されるのも時間の問題じゃね? 特定班ってかなりしつこく追い掛けるからさ。お前、こうなった責任取れんの?」


「責任て……」


「お前のさ、楽しいことが好きだってとこは嫌いじゃないよ。でもさ、他人を巻き込んで、他人に迷惑かけてまで、お前、何したいの?」


「そんなつもりないし」


「言ったよな? 前にネトストされてた時にさ。ネットは怖いとこなんだから、ネットリテラシーはしっかり守っとけってさ」


 元ネカノだった子にネトストされた時に村山に散々言われていたことだった。


 俺はそれを守ってるつもりでいた。


 いや、違う。鍵アカだからそんなの大丈夫だとタカをくくっていた。


 本当にそんなつもりはなかった。


「町田先生の車、昨日誰かに思いっきり傷付けられたらしい。顔がバレてるんだから、住所だってバレてんだろ」


 背筋を冷たい物が流れていく感覚がした。


「お前、否定するどころか煽ったよな? その結果、横山や町田先生がネット上でどんな目に遭うかとか一瞬でも考えたか?」


「……」


 もう何も言えなかった。


 あの瞬間、俺はただ退屈で、みんなも退屈してそうだから話題の一つでも提供してやれば喜ぶだろうな、としか考えてなかった。


 どうせ他人事だし、こいつらもお祭り騒ぎみたいにワイワイしたいだけだと思って。


「それとな、もう一つ。このクラスに他に犯人がいるって話も流れ始めてる。三年二組のみんなの顔がネットに晒されることがあったら、お前、どうすんの?」


 村山の声はどこまでも冷たくて、静かに怒っているんだと分かった。


「それでこのクラスの誰かに何か起きたら、お前、どうすんの?」


「どうするって……」


「調子に乗りすぎんなって俺言ったよな? 人が一人死んでんのに、お前、ほんと何考えてんだよ」


「そんな、大袈裟に言わなくてもいいんじゃね?」


「……あ、そ、もういいわ。お前とは付き合ってらんねぇ」


 そう言うと村山は軽蔑するような視線を俺に向けて立ち去っていった。


 俺が悪いの? 本当に?


 いや、俺悪くなくね? だって別に横山と町田が犯人なんて一言も言ってねぇし。


 アプリを開いてAliceにダイレクトメールを送った。


『何勝手にスクショ晒してんだよ!』


 すぐに既読がついて返事が返ってきた。


『え? だってみんな情報知りたがってたし。え? 悪いことした? 怒られてる?』


 Aliceにも悪気なんかないことは分かってる。でも……。


『あれ、今すぐ消せ!』


『意味分かんない! そもそも情報くれたのKenKenじゃん! それにさ、今更消したってとっくに拡散されてるから無駄』


 これから俺はネットの拡散力の怖さをジワジワと体験することになる……。





 

 

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