佐々木夏姫1
学校で事件が起きた。
プールに水死体があるなんてすごいことが起こっちゃった。
当日は午後から休校になって、次の日は保護者説明会、そしてそこから週明けまで休校が決定。
死体が見つかったのが火曜日だから、五日間の休みになる。
普通に休みだったら遊びにも行けたし、友達の家に行ったり、友達にうちに来てもらったりもできるけど、今回は事件が起きたから、極力家から出ないように、出かける際は一人にならないようにって学校から言われてる。
「もしもしー?
「おー、
暇すぎるから友達に電話をかけた。
近隣の学校も休みになっているところが多くあって、みんな暇をしていて、電話をかけるとすぐ出てくれた。
「元気元気! 美華は? 彼氏とはどうなってんの?」
「あー、あいつ? あんなのとっくに別れたよー」
「なんでー? すっごいお似合いだったのにー」
佐藤美華は中学まで一緒だった子で、高校に入ってから何人も彼氏ができた、いわゆるデビュー組。
中学まではパッとしない感じだったのに、うちの高校より緩い高校に入学後、突然派手系グループに入った。
「てかさ、あんたの高校ヤバいじゃん! どうなってんの? ニュースで言ってることマジなの?」
「あーね。うん、ほんと」
「ヤッバ! 怖っ! え? 夏姫はそれ見たの?」
事件のことはニュースで知った。
被害者の女の子のことは全然知らない。
あっちは二年生で、一年と二年の教室は三階で、私は三年生だから教室は二階にあって、音楽室に行く時くらいしか三階になんて行かないから接点もない。
部活の後輩だったら少しくらい接点を持ってたかもだけど、図書部に籍だけ置いてて活動に一切参加してない幽霊部員の私。
もし同じ部活の後輩だったとしてもきっと知り合うこともなかったと思う。
だけど……。
「……実はね……最初に気づいたの、私、みたいな?」
「えぇ?! マジで?! え、ちょっ、それってヤバすぎだって!」
思った以上にいい反応がもらえて心の中でガッツポーズ。
実際には何も見てないし、水死体がプールにあったこともニュースで知った。
でも、このくらいのことなんて誰にも迷惑かけないし、多分みんな言ってる。
「話を盛るのよくないと思う」
中学の頃、誰だっけ? 名前も思い出せないけど、メガネでお下げの女子にそう言われたことがあった。
「え? いいじゃん。その方がみんな喜んでくれるし」
昔から私は話を盛ることが多くて、知ってないことでも「あー、知ってる!」と答えてしまうことがよくある。
でも、人の話をよく聞いてると、「その話、絶対盛ってるじゃん!」と思うシーンが多くて、みんながやってるなら悪いことじゃないと思ってる。
「この前さー、変質者見たんだー。ヤバいおっさんでさー、おしっこ撒き散らしながら歩いてたんだよねー。かけられそうになって走って逃げたよー」
実際には立ちションしていた酔っ払いふうのおじさんがいただけの話でも、こんなふうに変質者として話をすると盛り上がる。
そして、その間は話の中心は私で、少しの間だけどその場の主役になれる。
『嘘も方便』っていうことわざがある。
小学生の頃に知ったそのことわざ。
嘘をつくことも、目的達成の手段として許されるみたいな意味があることわざ。
そんなことわざが昔からあるように、話を盛ることは昔からたくさんの人間がやってきたコミニケーションの一つで、悪いことじゃないんだと思う。
「どんなだった? 死体なんてさ、見る機会なんてないじゃん?」
死体を見る機会がある人ってどんな人だろう?
病院で働いてたらそういう機会もあるだろうけど、普通の人はそんな経験少ないし、日常生活の中で死体が転がっていることもありえない。
「最初ね、何だか分かんなかったんだー」
「あー、頭だけ見えてたんだっけ?」
「そそ」
プールに全身が浮いている状態じゃなくて、頭だけ出ている状態で見つかった水死体。
その異様さもあってなのか、ワイドショーでも長い時間を使って事件のことを語っていて、何度も見たから知っている。
見てなくても話せるくらいの情報は持っている。
「何かあるなー、何だろなーって見てただけだったんだよ? そしたらさ、まさか、ね」
「うわー、ドラマじゃん! そんなこと普通ないって!」
「ちゃんと人だって分かった時は鳥肌止まんなかったよー」
「だよね、そうなるよね! 『第一発見者』ってやつだよね? ヤバっ」
「まさかこんなことになるなんて思わなかったー」
実際にあれを最初に発見したのは誰なんだろう?
それが死体だと分かった瞬間、その人はどんなふうに思ったのかな?
想像力を膨らませて、その瞬間だけその人になりきったつもりになる。
その方が真実味が増すし、みんな喜んでくれるから。
その後も美華が喜ぶように、ニュースで仕入れた情報を私なりに膨らませて話をして、一時間くらいで電話を切った。
その後、私のスマホは忙しくなった。
美華から話を聞いた知り合いが電話をしてきたり、メッセージを送ってきたりし始めたから。
みんな面白い話が大好きなんだ。
私はその「話題」をみんなに提供していく。
それだけで何だか世界中から注目を浴びているような気分になる。
みんなが私の話を聞きたがるから、私はそのみんなの欲求を満たしてあげる。
ギブアンドテイクってやつだよね。
休校四日目の今日は、朝からやけにチャイムの音がうるさい。
「夏姫! あんた何したの!!」
お母さんが怒鳴るように私を呼んでいる。
「何?」
下におりてみると、玄関前が騒がしいし、ずっとチャイムが鳴っている。
「何? 何が起きてるの?」
「こっちが聞きたい! あんた、何を言いふらしたの?! あんたの話を聞きたいってリポーター達が玄関前にいっぱい来てるじゃない! あんた、あの事件に何か関係でもあるの?! 正直に言いなさい!」
お母さんが怖い顔をして私を見ている。
まさか美華に話したことがきっかけでマスコミがうちに押しかけることになるなんて思ってなかった。
だけど押し寄せてきたマスコミの人達にちょっとだけワクワクしていた。
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