秋山航太1
その一報が入ったのは早めの昼食に出ようとしたその時だった。
「中崎西高に水死体?!」
田舎の新聞社に寄せられたその一報に編集部内は一瞬にして緊張に包まれた。
交通事故や地域のほのぼのしたニュース、中体連や高体連の結果報告などばかりを取り上げてきて、全国を賑わす大きな事件など起きたこともないような実に平和なこの町。
「秋山! 行けるか?!」
「はい、行ってきます!」
自分の母校でもある中崎西高等学校へと急いで向かうと、既に事件を聞き付けたテレビ局の車が二台到着していた。
「どーも、どうすか?」
交通事故の取材などで何度も顔を合わせているため気軽に声をかけた。
「あー、秋山くんか。いやさ、分かんないんだよ」
「警察発表はまだなんすよね?」
「鑑識がきてて、さっき刑事課の恩田さん達が到着したんだけど、まだ何の情報ももらえなくてさ」
新聞社やテレビ局は警察官と顔馴染みになっていて、正式に警察発表がある前でもある程度情報をくれることが多い。
なので、警察発表が出た直後から記事を発信できるし、規制がかからなければその前から報道することも可能だ。
それがないということは。
「ヤバい事件の可能性があるってことっすかね?」
「……考えたくないけどその可能性が高いかもしれないね」
少し前に他県で、いじめの末プールに突き落とされて死亡した中学生のニュースが全国を駆け巡った。
未来のある子供が悲惨な死を遂げる事件は世間の関心が高く、報道にも熱が入る。
「こんな平和な田舎で……」
それも自分の母校でそんな事件が起きたなんて未だに想像ができないが、一切の取材に応じないことを考慮するとそういうことなのだろう。
その場で二時間ほど粘ったが何の収穫もなく、周辺住民に何があったのか聞き込みをしてみたが、警察官が不審人物の目撃情報や不審な物音がなかったかを聞いてきただけで、何が起きたのか知らない者ばかりだった。
編集長に電話をし、まだ張り付くかの判断を委ねると、「徹底的に張り付け」と言われたため、俺は警察の動向に張り付くことになった。
一報が入ってから五時間後、警察から正式に事件の発表がなされた。
中崎西高に通う秋山まりという女子生徒が、同校のプールにて水死体で発見された。
現場の状況から事故の可能性は限りなく少なく、事件として捜査を行う。
死亡した生徒は先月から不登校であり、また一人暮らしをしていたためどのような経緯でプールへと向かったのか、その足取りは掴めていない。
本人所有のスマホや財布なども見つかっておらず、犯人が持ち去ったものとみられる。
死亡推定時刻は前日の深夜0時から四時の間であると考えられる。
その発表を即座に編集長に伝える。
「秋山? お前の身内か?」
「いえ、同姓なだけです」
「そうか……引き続き張り付け。何か新しい情報を掴んだら報告しろ」
「分かりました」
警察に張り付きながらも俺は独自の情報網を使って少女の情報を集めた。
『秋山 まり』。
身長百五十三センチ。
中学三年の頃にいじめにあい、愛田県からこの町へと一人で越してきた少女。
両親は彼女が小学三年生の時に離婚し、母親は現在愛田県にて自身の両親の介護をしながら働いている。
両親を介護施設に入れる金銭的余裕がないため、秋山まりは単身この町に越してきた。
高校に入学すると秋山まりは母親の負担を減らすためアルバイトを始め、周囲からは母親思いの優しい子だとの評判が高い。
学校生活は順調で、特にいじめを受けていた形跡もなく、体調不良で不登校になる直前まで友人達と楽しそうに過ごす姿が目撃されている。
学校でもバイト先でも特にトラブルは見つからず、また交際相手もおらず、彼女の周辺にはきな臭さは感じられない。
そんな少女に一体何が起きたのか?
そんな中で入ってきた警察発表の続報に、これはヤバい事件だと俺の勘が呟いた。
秋山まりは全身に総重量八十五キロもの重しを付けられた状態で、水深およそ百四十センチあるプールの中央で直立不動の状態で発見されたというのだ。
そして、身元を判明させるためなのか、彼女の手には生徒手帳が握らされていたという。
生徒手帳と指紋などを照合した結果、彼女の身元は判明した。
母校だからあのプールの構造は知っている。
中央が一番深くなっていて、小柄な生徒ならば口すら出ない。
そんなところで、全身に自分の倍近い重しを付けられ、立ったまま死んだ少女を想像して背筋に怖気が走った。
何の恨みがあればそんな非道な行いができるのだろうか?
秋山まりはどんな思いで死んでいったのだろうか?
スマホの画面に写し出された秋山まりは、ショートカットの短い髪に控えめな笑顔を浮かべた、ごく普通の女子高生にしか見えない。
「あんたに何が起きたのか、俺が徹底的に調べ上げるからな」
俺にできることは彼女に何が起きたのかを取材を通して調べ上げることしかない。
こうして俺の、長い取材が始まった。
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