第32話 レヴィ・スケルト、その変態性

「どうしよう……」


 売り言葉に買い言葉。

 別に激しく喧嘩を売られたわけではないが、煽り耐性が低すぎるあたしは気がついたらオフでレヴィ・スケルトとFPS勝負をすることになっていた。

 どうしてだ。せめてオンラインでやろうと言えよ昨日のあたし。対面コミュ障ですけど。


「行くしかねぇ。売られた喧嘩から逃げるなんて恥だ」


 どれだけ嫌でも、あたしの魂は"逃げるな"と叫び続ける。オッケーしてしまった時点で逃げ場などあるわけなかったのだ。

 おのれレヴィ・スケルト……あたしのツボを良く分かってるじゃねぇかよォ……。


 というわけで──、


「ヘイマム!! 事務所までタクシーよろしく!」

「三万円」

「え、高くね?」

「私だって暇じゃないのよ? なんで無料同然で未だ穀潰しの娘の送り迎えをしなきゃならないのよ。高校生の間のニート時期の家賃その他諸々は良いとして、卒業してからの二年間の借金はどうするつもり? WiFi切らなかっただけ優しいと思いなさいよね」


 1を言えば100になって返ってくる我が母だ。

 しかしばかり穀潰しというのは一切言い訳ができないから、しょんぼり顔で頷くしかあたしに選択肢は無い。


 ……まァ、ニート時期のお金はきっちり返すってのはあたし自身が決めたことだからな。

 高校生の時のニート期間は母親もがあるみてぇだし、あたしもあの時は死んでるも同然だったからな。


 ふっ、だが舐められたもんだな。

 今のあたしにとって三万円なんて!!!!!


 ……めっちゃ大金なんだよなぁ……。


「ハイ、これでお願いしあす……」

「はいよ。じゃあさっさと準備してきな」


 あたしは財布にあったなけなしの札を母に献上し、片道1時間半の事務所の往復タクシーを手に入れたのであった。

 アッシー! ゲットだぜ!!


☆☆☆


「ハァ、着いたか……人と会いたくねェ……」


 げんなりとした顔でビルの前に立つあたし。

 時刻は午後17時50分。

 約束の十分前に到着したあたしは当然気乗りなどするわけもなく。今すぐ帰りたい感情から目を背けつつ、重い足取りでビルの中に入った。



 事務所内は所属ライバーであれば様々な恩恵を受けることができる。

 たとえば配信のための防音室と配信機材の無料貸し出し。

 必要に応じたスタッフの設置と一定の予算など、その恩恵はかなりデカい。


 しかしながら人と会いたくないあたしは、防音室の予約のみをマネージャーにして、コソコソしながら部屋に向かっていた。

 ……何だか悪いことしてるみてぇだけど。

 

「ふんぬっ、扉固ぇな」


 ぐっと力を入れて扉を開ける。

 防音室の中はそこそこ広く、ゲーミングチェアが二脚と、配信機材が2セットあった。これだけで何十万するんだろうな……壊したらレヴィ・スケルトのせいにしよう。


 そんなあくどいことを考えていたからだろうか。


 ふと、耳にフワッとした息がかかった。



「──見つけた♡」

「うひゃぁぁぁあ!!!!」


 あたしは突如として耳朶に響いた甘い声音に、驚愕と恐怖で全力で飛び退って距離を取る。

 

 な、な、な、なんだよクソが!!!!

 コミュ障の背後を取るんじゃない!! 死ぬぞ!

 あたしが!!


 文句を垂れつつ振り向くと、そこにはピンク色の髪をツインテールにした完全に表情が死んでる女がいた。

 服装はまさかのゴスロリメイド服。マジかよ。

 そして顔はあたしと同レベル……いや、正直あたし以上に整っている様相で、彫刻めいた美しさがあった。


「レヴィ・スケルトォ……はっ、尻尾巻いて逃げるかと思ったぜあたしは」

「どうして後ろ向いてるの」

「コミュ障なんだよ察しろよボケが」


 後ろを向きながら宣言するあたしに、フラットな声音で疑問が呈された。

 隠すことでも無いので正直に答えると「ふーん」と生返事が返ってきたが、気がつくと音もなくレヴィはあたしの真正面に立って目を覗き込んできた。


「──っ……あれ……平気、か?」


 恐怖が襲いかかる──そう思ったあたしだったが、なぜかレヴィに見つめられても平気なままだった。

 コミュ障が治った……わけではねぇ。

 案件配信してから四日しか経ってねぇんだ。それくらいで患ったコミュ障が治せるのなら、とっくのとにあたしは陽キャになってる。


 ……考えられるとしたら、レヴィがとことん無表情であるということ。

 でもあたしって視線が苦手なんだよな……?

 ……いや違う、もしかして表情、か……?


『ふ、ふへへ……かわいいなぁ……』


「……くっ」


 頭の中にノイズが走る。

 今生に渡って封印したい記憶トラウマが蘇りかけるのを必死で抑える。


 ……もしもあたしのトラウマが表情に起因しているのなら、無表情のコイツが平気なのは理に適ってるかもしれねぇ。


「レイナちゃん、かわいい♡」

「無表情なのに声音が甘いの恐怖だろ……」


 かわいいという言葉に関しては若干トラウマだったりするのだけれど、レヴィの場合は表情が伴わなすぎて言われている実感が湧かねぇ。


 ……まァ、これでまともに勝負できそうだしヨシとするか。


「ええい離れろなんだてめぇは!!」

「……? レヴィ・スケルト、だよ?」

「声聞けば分かるわッ! てか初対面の人間にASMRするヤツがいるかァ!!」

「ごめん、ね?」

 

 ピンときていないと言わんばかりに首を傾げて謝罪をしてきた。……くっそ、調子出ねぇなおい。

 これなら煽られてた方がマシだぜまったく……。


 あたしはガシガシと頭を掻きながら本題に移る。


「んで、FPS勝負をしに来たんだろ? さっさとボコボコにしてやるからさっさと座れよ」


 クイッと配信機材(普通にゲームだけもできる)を指差すと、またもレヴィは首を傾げてこう言った。


「……??? ボコボコにするのはワタシ、だけど」

「上等じゃゴラァ!!!!!」

「じゃあワタシが勝ったら何でも一つ言う事聞いて」

「上等じゃゴラァ!!!!!」

「ヨシ」


 何か大変な約束を取り付けてしまった気がするが、完全にヒートアップしてるあたしに判断力というものは持ち得ていなかった。

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