第3話 残滓
僕にはまだまだやりたいことがあって、目の前では再現できるのに。
いざやろうと思うとなかなか腰が上がらない。ずっとそんな人生だった。
何かのために夢中になる事はあっても、それが最後まで続かない。
僕ももうとっくに燃え尽きていた。全てがつまらなかった。
確かに彼女の存在は僕にはすごく光って見えた。そんな彼女がもがいていることが僕には少し悲しかった。
最後の光だったんだ。
僕は彼女のことが好きなのかもしれない。多分違う。きっと優しくされて話し相手になってくれたことが嬉しかっただけだ。たばこが。ただあっただけだ。そこですこし心が動いてしまった。すごいめんどくさい。
それから一週間が経った。彼女とはそれからシフトが被ってもあまり話す事はなかった。喫煙室を覗いてみたけれどそこにはもう彼女の姿はなかった。僕と彼女の関係もおわり。バイト終わり喫煙室に行って、ただお互い吐き出すだけ。それだけ。
少しして彼女が喫煙室に来なくなった理由を人伝に知った。就活で忙しそうにしているとのことであった。僕はただ少しだけ感じていた。彼女から出る負のオーラみたいなものを。もちろんそれを僕が受け止められるわけでもなく、ただ少しずつ大きくなっていく、それをただじっと見つめることしか僕には出来なかった。僕には正解がわからなかった。そんな僕がとても情けなかった。そして嫌いだ。
「久しぶりに喫煙室行こうよ」
一緒に行かなくなってから1ヶ月がたった頃彼女から久しぶりに喫煙室に誘われた。もちろん断るわけもなく。
「わかりました」
と素っ気なく答えるのだった。そんな僕をみて彼女は少しだけ笑った。悲しい笑みだった。自分も来年には夢と将来を秤にかけて、比べなくてはいけない。残酷な世界が迫っているように感じて、僕は身震いした。
「なんかさ、どっかいかない。」
少しの沈黙の後彼女はそう呟いた。
「海が見えて、なにもないところ。どこまでも永遠に1日が続きそうなところに。」
予想外だったけれど、どこかで嬉しかった。頼られた気がした。きっと僕じゃなくてもいいんだ、それでも。
「どこがいいですかね。」
正直全然見当もつかなかったし、彼女が行きたい場所に合わせようと思ってた。
「北海道...にしよう」
ぼそっと彼女は呟いた。なぜ北海道なのか、そもそも何をするのか僕には何一つ分かってはいなかった。
ただ僕たちのそういう関係性はどこか心地よかったし、とても彼女にとって意味のあることだと感じた。
「今7月だから向こうは涼しいんですかね。」僕が当たり障りのない言葉を投げる。
「多分そうだろうね。」素っ気なく彼女も返す。
「昔からずっと行きたいと思ってたんだよね。ただ誰とでもいいわけじゃなくて、ただ気を遣って一緒にいる有象無象の友達じゃなくて。もっと心地いいどうでもいいことをだらだらと垂れ流すのが苦痛じゃない相手。なんでかわからないけれど、君はそんな気がするんだよね。」
僕は彼女の顔を思えばちゃんとみていなかったんだと気づいた。
たばこを吸っている時の彼女の表情はとてもつまらなそうに感じた。
来週の月曜日から一緒に北海道に行くことになった。今日が月曜日だがらちょうど一週間後だ。
旅行なんて久しぶりだった。ましてや女の子と二人きりで旅行だなんて。これはカップルみたいなものではないかと一瞬僕の頭の中を掠めた。でもすぐに振り払った。彼女から失望され、軽蔑されるのが怖かった。この気持ちのいい関係をこのまま永遠に続けたかった。僕が一歩前に踏み込んでしまえば、それが壊れてしまう気がして。だから恐る恐る歩いて進むのだった。程よい距離感と関係性の僕と先輩の物語は続いていく。なにか生まれるわけではないけれど、きっと僕達が前に進むには必要な形なんだといずれ知ることになる。
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