第2話 燃え滓
たばこ。燃えたら一瞬で消えてなくなるモノ。あとには何も残りやしない。僕の人生もきっと同じだ。目的もなくたださまよって消えるだけ。それに寂しいとも思わなければ、虚しいとも思いやしない。翠さんは不思議な人だった。口数も多いわけではないけれど、どこか魅力的だった。清濁を併せ持つ彼女は、不思議と綺麗だった。僕は自分が思ってたよりは、単純だったのかも知れない。彼女が落としたタバコがそんな気分にさせたのかも知れない。
「よく考えてみたら、あれって」間接キスだったのかも知れない。僕は少し高揚した気分を抑えながら家に帰った。
次に彼女とバイトが被ったのは、その出来事の3日後であった。彼女はいつも通り少し気だるそうな顔をしてレジに立っていた。僕が出勤したことに気づくと、少しだけこっちをみて微笑んでくれたがすぐに元の表情に戻った。
レジで接客をして少し立った頃横から紙がすっと僕の目の前に置かれた。そこには「今日もシフト上がったらタバコ吸うの付き合って」とだけ書いてあった。僕は彼女の方をチラッとみたけれど、彼女は僕に一瞥もしなかった。相変わらず僕には、彼女の考えていることはわからないけれど彼女と二人きりで過ごせるだけでもなんとなく嬉しかった。それからはシフトの時間が終わるまでの時間が、妙に長く感じられた。
僕が裏の喫煙室に着くと彼女はもう既にたばこを大量に吸っていた。僕の方が出勤が遅かったため待たせてしまったみたいだった。僕はたばこを吸いながら座っている彼女と少し距離を空ける様にして座った。たばこの吸い殻を見るとこの間よりも多く感じた。
「夢ってさ、なんなんだろうね」彼女はいきなり僕にそう問いかけてきた。僕が返答に困っていると彼女は答えた。
「夢を持つことはさぞ偉いみたいな雰囲気なくせして、実際に追いかかけようとすると幾つも壁があって全然歩いて行けない。結局掴むことができないならさ、最初から私に選択させないでほしいな。」僕はいよいよどう返したらいいのか分からなくなっていた。自分もきっと同じだから。だけど気安く同情するのもどこか違う様に感じられた。
「私ね、多分もう燃え尽きてるの。タバコと一緒。」彼女はそういって喫煙室を去っていった。たばこの煙がゆらゆらと漂っていた。その日は僕もそのまま帰った。
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