第4話 セブンスター

あれからちょうど一週間が経った。これといって特に変わったことのない日々がただ過ぎていた。

しかし僕の心は十分と言ってもいいほどに高まっていたのは確かだったし、今この瞬間だけは死んでたまるかと心に誓った。前日の夜に彼女とはシフトで被っていた。朝8時東京駅に集合して、そのまま一緒に羽田空港へ。

僕はこの少し浮き足だった気持ちを彼女に悟られまいと、なるべく平常心を保ったまま返事をした。

「用意はもう終わった?私はこれから帰って準備しなきゃなんだけど。」彼女がめんどくさそうに呟いた。

「いえ、僕もこれからです。めんどくさくてなかなか手をつけてなかったです。」これは嘘である。

本当は一週間前からコツコツ準備を始めていたし、忘れ物なんてない完璧な仕上がりと言っても良いくらいに入念に準備をしていた。そんな僕の顔を見て、彼女は何か感じ取ったようだった。

「秀太くんはさ、おもったより顔に出やすいタイプだよね。わかりやすくていいね。」と少し高笑いながら彼女は満足そうに僕にそう言った。

「からかうの辞めてくださいよ。ほんとにこれからやるんですから。」

「私は君はあらかじめ準備しておくタイプだと思ってたんだけどな~。」

先輩との会話はいつもより増して弾んだ。これは旅行のおかげでしかないのだけれど。それでも二人で話し合って、ふざけあって、からかいあう様子はさながらカップルみたいだなと僕は思った。


そして今に至るわけなのだが、完全に寝坊した。慌てて飛び起きてスマホを確認する。目覚ましは確かにかけたはず。寝る前に何回も確認したし。しかし時刻はもう直ぐ8時になろうとしてる。東京駅の集合時間にはもう間に合わないけれど、直接空港に行けばまだ間に合う。幸い僕は髪のセットなんてしないこともあり、顔を洗って直ぐに家を出ることができた。荷物を持って全速力で駅に向かう。彼女には電車に乗ったら連絡をとり謝罪しようと思った。

汗だくになりながらやっとの思いで駅に着くと、見覚えのある人物が待っているのが分かった。彼女だった。

「終わった...」彼女はニコニコしながら僕のことを見ていた。その表情が怖くて、夏の暑さでそのまま溶けてしまいたくなった。


僕と彼女は一緒にホームで電車を待つ。この時間の電車に乗れれば問題なく飛行機には乗れそうだ。

「すいませんでした!!」とりあえず全力で謝る。これが世渡りのコツだとアルバイトをして学んだ。

「秀太くんのせいで私はすごい時間待たされてるんだけど。連絡しても返信こないし、これはもう完璧寝坊だなって思って君の最寄駅で待ってたのよ。」先輩の表情をチラッと見る。

「僕も悪気があったわけではないんですよ。許してくださいよ」

「女の子をこんな暑い中で、一人待たせて。これは何かしてくれないと許せないなー。」

「なんかってなんですか」ちょうど電車が駅に到着して、ドアが開いた。

「それは後のお楽しみってことで!」そういうと先輩は電車に乗り込んだ、続くように僕も電車に乗った。


電車に揺られながら1時間半ほど他愛もない話をしながら、僕たちは目的地へと運ばれた。

途中なぜ北海道を選んだのか、彼女に聞いてみたけれど教えてはくれなかった。でも何か意味があるのだろうとなんとなく僕は思った。2泊3日女性と二人きり先輩主導で、どこに行くのか何をするのかわからない旅が幕を開けた。

10時ごろ僕たちは羽田空港に到着した。飛行機は11時の便なので、まだもう少し余裕がありそうだった。

手荷物を預けて、保安検査場を通っていざ北海道へ向かう準備が整った。

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