第十五話

 そしてウキコおばあちゃんは、ニッコリと微笑ほほえむと私にニンジンを一本、し出した。

「分かれば、いいんじゃ。ほれ、これを持って行け。オマケじゃ」

 うーん。やっぱりウキコおばあちゃんは、ただ者じゃないなあ……。


 そして食堂にもどった私は、いつものように働いた。いつものようにお客さんに、体の調子を良くするための料理を作った。トミヒ様のことは、あきらめることにした。昨日きのう、あんなにヒドイことを言ってしまったのだ。おそらくトミヒ様は、二度とここにはあらわれないだろう。


 すると、おどろくことが起きた。何と夕方に、トミヒ様がこの食堂にやってきた! え? どうして? 昨日、あんなにヒドイことを言ったのに。私は混乱こんらんしたが、とにかくあやまった。

「申し訳ございません、トミヒ様! 昨日は、無礼ぶれいなことを言ってしまいました! 本当に……」


 するとトミヒ様は、私に右の手のひらを見せて私の言葉をさえぎった。

「いえ、いいんです、ナヒコさん。謝らなければならないのは、私の方です。私はあなたの言葉で、目がめました」

「え?」


 私が疑問に思っていると、トミヒ様は真剣しんけんな表情で続けた。

「私は今まで、このヨミフ国とガナス国にこれ以上の犠牲者ぎせいしゃを出さないためにも、この命をかけて戦争を終わらせようとしていました。でも、私も犠牲者になってはいけなかったんですね。私が死んだら、悲しむ人がいるんですね……」


 私の右目から、涙がこぼれ落ちた。そうです、そのとおりです。分かってくれて、ありがとうございます。そして私は、何度もうなづいた。その通りですと。するとトミヒ様は、続けた。


「なので私は、考えました。どうすれば私をふくめて両国にこれ以上、犠牲者を出さずに戦争を終わらせることができるだろうかと。そして、結論が出ました。両国はこれ以上戦わず、交渉こうしょうによって戦争を終わらせるべきだと」


 え? これ以上、戦わないで交渉する? そんなことが本当に、できるの? そんなことを考えながら私は、トミヒ様の言葉を待った。するとトミヒ様は、続けた。


「まず、鉄が取れる鉄鉱石てっこうせき豊富ほうふにあるイトサ鉱山こうざんですが、これは我々われわれヨミフ国のモノとします。そして我が国の貴族きぞくたちに、鉄を取り出す工場を作らせます。


 更に貴族たちに鉄をしがっているガナス国に、優先ゆうせんして鉄を売らせます。そうすれば貴族たちの工場も、利益りえきることができます。こうすればガナス国にも我が国にも、利益があると考えました」


 な、なるほど。そんな方法が……。私は、考えた。我が国の貴族とガナス国の両方に利益があるのなら、きっとこの交渉は成功すると。なので私は、トミヒ様に告げた。

「良い方法だと思います、トミヒ様。その交渉なら、きっとうまく行くと思います!」


 そして私は、聞いてみた。

「でもそんな方法、よく思いつきましたね」

「はい。実は私は、IQアイキューの魔法を使えるんです」


 IQの魔法? 何だろう、それ? 聞いたこともない……。するとトミヒ様は、説明してくれた。

「IQの魔法は、一時的に知能指数ちのうしすう上昇じょうしょうさせる魔法なんです。すると多くの情報を一瞬いっしゅん処理しょりして、問題を解決する方法が思いかぶんです。これは、王族おうぞくしか使えない魔法なんです」


 な、なるほど……。とにかくこの方法なら、これ以上誰の犠牲者を出さずにこの戦争を終わらせることができるかもしれない。もちろん、トミヒ様も犠牲にならずに。なので私は、トミヒ様をはげました。

「それではその方法で、がんばってください! きっと上手く行きますよ!」


 するとトミヒ様は、満足そうにうなづいて答えた。

「ありがとう、ナヒコさん。あなたにそう言われると、私も自信が持てます。でも、一つだけ問題があります」

「え? な、何でしょうか?!」


 トミヒ様は少し、いたずらっぽく微笑ほほえんだ。

「それはこの交渉には、とてつもないスタミナが必要だろうということです。何しろ対立している、我が国の貴族とガナス国と交渉するんですから。なのでナヒコさんに、スタミナが付く料理を作ってもらいたいんです」


 それを聞いて私の涙は、うれし涙に変わった。私は、元気よく返事をした。

まかせてください、トミヒ様! 今すぐに作ります!」


 そして私は魔法をとなえて、かまどに炎を出現しゅつげんさせて料理を始めた。私は今まで料理を作ってきた中で一番、力を入れた。作って見せる。最高のスタミナ料理を作って見せる。


 そうして私が作った料理は、ほうれん草とベーコンのクリームパスタ、牛薄切ぎゅううすぎりの甘辛煮あまからに豚肉ぶたにくのにんにく焼き、豚レバー焼き、ウナギ焼き、マグロの刺身さしみだ。


 クリームパスタにはグリコーゲンのもとになる、糖質とうしつが豊富にふくまれている。グリコーゲンは、筋肉や脳のエネルギーになる。そして甘辛煮には、鉄分が豊富に含まれている。鉄分は、ヘモグロビンの材料だ。ヘモグロビンは、全身に酸素を送りとどける。


 豚肉には、ビタミンB1が豊富に含まれている。ビタミンB1は、糖質を含む食べ物をエネルギーにする。豚レバーには、ビタミンB2が豊富に含まれる。ビタミンB2は、栄養素をエネルギーに変える。


 ウナギには抵抗力ていこうりょくを強める、ビタミンAが豊富に含まれている。マグロには疲労の素を解消する、アンセリンが豊富に含まれている。でも、これらのりょうの料理を見たトミヒ様は、ちょっといた。

「こ、これはすごい量ですね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る