第十四話

 どうして私はトミヒ様に、あんなにヒドイことを言ってしまったんだろう。ケガをしていたとはいえ、せっかく私に会いにきてくれたトミヒ様に。その時、私は気づいた。自分の気持ちに。私はどうしようもなく、トミヒ様を愛していると。


 王族おうぞくでありながらえらぶらずに、私に丁寧ていねいに話をしてくれる誠実せいじつなトミヒ様に。これ以上、どちらの国にも被害者ひがいしゃが出ないように百年続いているこの戦争を終わらせようとしている、優しいトミヒ様に。そして戦争が終わったら私に大事な話をしたいと言って、私を喜ばせているトミヒ様に。


 なのにどうして、あんなにヒドイことを言ってしまったんだろう。そのくやしさで私はその夜、涙が止まらなかった。


 そして、次の日の朝。あまり眠れず完全に寝不足ねぶそくだったが、私は起きてベットから出た。やっぱり寝不足で体がだるかったが、それでも起きた。今日も体の調子が悪いお客さんに、料理を作るためだ。


 朝食をすませると私は、食材を買うために街に出た。まずはノリシさんの、肉屋に行った。すると早速さっそく、聞かれた。

「おはよう、ナヒコちゃん! あれ、どうしたの? 何だか、元気が無いみたいだけど……」


 実際、私は元気が無かった。理由はもちろん昨日きのう、トミヒ様にヒドイことを言ってしまって自己嫌悪じこけんおになっていたからだ。でも、それを言うわけにもいかないので私は無理やり笑顔を作った。

「あ、いえいえ。大丈夫です、私は元気ですよ。さあ、今日のおすすめは何ですか?」


 するとノリシさんは、ちょっと疑問の表情だったが答えた。

「そうかい? まあ、ナヒコちゃんがそう言うならいいけど……。ああ、今日のお勧めはねえ……」


 そうして私はノリシさんが勧めてくれた肉を買って、次はイタケさんの魚屋に行った。イタケさんは今日もいつも通り、元気だった。

「おはよう、ナヒコちゃん! あれ、ちょっと元気が無さそうだけど、大丈夫? でも、大丈夫! 僕のお勧めの魚を食べれば、元気が出るから!」


 マ、マズイ。イタケさんにも元気が無いことが見抜みぬかれている。なので私は、再び無理やり笑顔を作った。

「はい! イタケさんのお勧めの魚を食べて、元気になります! なので今日のお勧めの魚を、教えてください!」

「お、いいねえ。元気が出てきたねえ。今日のお勧めの魚はねえ……」


 そして私はイタケさんが勧めてくれた魚を買って、次にウキコおばあちゃんの畑に向かった。ひょっとしたらウキコおばあちゃんにも元気が無いことを見抜かれてしまうかも知れないので、私は初めから無理やり笑顔を作って挨拶あいさつした。


「おはようございます、ウキコおばあちゃん! 今日もおばあちゃんが作った、美味おいしい野菜を買わせていただきます!」


 すると目の前の野菜に視線しせんを落としていたウキコおばあちゃんは、ジロリと私を見た。そして再び視線を目の前に並べてある野菜にもどすと、聞いてきた。

「アンタ、何かあったか?」

「え?」


 私は思わず動揺どうようしてしまったが、それをかくした。

「え? い、いやだなあ、ウキコおばあちゃん。私はいつも通り、元気ですよ!」


 だが私のその言葉を無視むしして、ウキコおばあちゃんは聞いてきた。

一体いったい、アタシがどれだけアンタを見てきたと思っとるんじゃ? いつもと声の調子ちょうしが違うから、アンタに何かあって元気が無いを隠そうとしていることはすぐに分かる。そしてその原因は、男か?」


 す、するどい。さすがウキコおばあちゃん。鋭いなあ……。そんなウキコおばあちゃんに隠し事は無理だと思った私は、答えた。

「ま、まあ、そうです。でも、どうして分かったんですか?」


 するとウキコおばあちゃんは、フンと鼻を鳴らした。

「アンタみたいに若くて可愛かわいい女が元気を無くす理由って言ったら、男しかない」

「そ、そうですか……」


 でもやっぱり、トミヒ様のことを話す訳にはいかない。なので私がだまっていると、ウキコおばあちゃんは続けた。

「まあ、あんまりなやまん方がええ。男と女のことで一番、大事なのはえんじゃ。縁がなければいくら好き合ってても上手うまく行かんし、縁があればいくら上手く行かなくても最後には結ばれるもんじゃ」


 私は、聞いてみた。

「そ、そうですか。男と女は、そういうもんですか?」


 するとウキコおばあちゃんは顔を上げて、ニッコリと微笑ほほえんだ。

「そういうもんじゃ。アタシが若いころはアンタよりももっと美人じゃったから、色々あった。それで、分かったことじゃ……」

「そ、そうですか……」


 うーん、やっぱり人生経験豊富なお年寄としよりの言葉は、おもみがあるなあ……。そして少し気が楽になった私は、野菜を買った。そうして食堂に戻ろうとすると、ウキコおばあちゃんに声をかけられた。

「ちょっと、待ちんしゃい」

「はい?」


 かえると、ウキコおばあちゃんは真剣な表情で告げた。

「まあ、とにかくあんまり悩まん方がええ。悩みというのは時間がてば、勝手かってに解決することもあるからのう……」

「は、はい」

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