第十三話

 でも次の瞬間、真剣しんけんな表情になって私にげた。

「今度この食堂にくる時は、良い報告ほうこくができるかも知れません。期待していてください。そしてその時はナヒコさん、あなたに大事な話をするつもりです」

「え? 大事な話?」


 大事な話って、何だろう? でも、今は聞けなかった。それに、聞く必要も無いだろう。この戦争が終わったら、聞けるはずだから。私がそう考えているとトミヒ様は、「それじゃあナヒコさん、またきます」と言い残して馬車ばしゃに乗った。


 それからの三日間、私はボーッとしたりソワソワしたり心配しんぱいしたりしていた。ボーッとして常連じょうれんのお客さんに出す料理を間違まちがえたり、いつトミヒ様はきてくれるんだろうとソワソワしたり、ひょっとしてトミヒ様の身に何かあったんじゃないかと心配したり。


 ハッキリ言って、こんなことは初めてだった。私はもう二十一歳だし、それなりに恋もしてきた。まあ、片思かたおもいだけど。医者のお父さんの仕事を手伝っていた時の患者かんじゃさんが、カッコイイなあと思ったりしたが何か行動を起こすことは無かった。それなのに今は、早くトミヒ様に会いたくて仕方が無かった。この気持ちは一体?……。


 そうして、三日目の夕方。今日もトミヒ様は、こなかった。仕方しかたが無い、もう夕方だし食堂を閉店しようと考えていた時、ドアが開いた。私は、『すみません、もう閉店です』と言ってお客さんをことわろうとした。でも、できなかった。ドアを開けたのが、トミヒ様だったからだ。


 私は一瞬いっしゅん、何を話したらいいのか分からなった。トミヒ様がきてくれなくて、さびしかった。早く、会いたかった。でも今、きてくれてありがとう。そんないくつもの気持ちが、ごちゃまぜになっていたからだ。でも私は、とにかく挨拶あいさつをした。

「いらっしゃいませ、トミヒ様……」


 でも私はトミヒ様を見て、おどろいた。トミヒ様は左腕に、包帯ほうたいをしていたからだ。そしてその左腕は、首から包帯でるされていた。気が付くと私は、今まで経験したことがないほど取りみだしていた。

「ど、どうしたんですかトミヒ様?! その左腕は?!」


 するとトミヒ様は、笑顔を作った。

「これですか? いやあ、面目めんぼくない。私は軍の指揮しきるために戦場に行ったんですが、ガナス軍の攻撃を受けてケガをしてしまったんですよ」


 こ、攻撃を受けてケガをした?! トミヒ様が?! 私は、取り乱しながらも聞いた。

「そ、それで大丈夫なんですか、トミヒ様?!」

「ええ、まあ。軍医ぐんいてもらったら、全治一週間だそうです」


 それを聞いて私は、一安心ひとあんしんした。

「そ、そうでしたか……」


 そして、ふと思った疑問を聞いてみた。

「それではどうして、今ここにいるんですか? 安静あんせいにしていなくては、いけないんじゃないですか?」


 するとトミヒ様は、れ笑いをした。

「いやあ。もしかしたらナヒコさんは、このケガをなおせる料理も作れるんじゃないかと思ったんですよ。できますか?」


 その言葉を聞いた私は、頭から血の気がいた。確かに、ケガを早く治せる料理を私は作ることができる。でも、それはしなかった。そのわりに私は、トミヒ様に聞いてみた。

「私が作った料理を食べてケガを治したら、どうするんですか?」

「え? 決まってますよ。もう一度、戦場に行って今度こそ我が軍がこの戦争に勝てるように指揮を……」


 気が付くと私は、トミヒ様の言葉をさえぎっていた。

「ふ、ふざけないでください!」


 するとトミヒ様は一体、何が起こったんだろうという疑問の表情になった。でも私は、続けた。

「私が作った料理を食べてケガを治して、また戦場に行く? ふざけないでください!」


 トミヒ様はまだ疑問の表情のままだったが、私は続けた。もう私は、自分の感情をコントロールできなかった。

「私が今まで、どんな気持ちでトミヒ様がくるのを待っていたか知らないんですか?! もしかしたらトミヒ様の身に何かあったんじゃないかと思って、心配してたんですよ?!」


 私は、死んだ人間とは二度と会えないことを知っている。どんなに強く、会いたいと思っても。私とお母さんが、もう二度とお父さんと会えないように。するとトミヒ様は、ようやく口を開いた。

「そうだったんですか、それはすみません……」

「私にあやまらないでください!」

「え?」

「自分を大切にしてくださいと言ってるんです! 戦場に行って指揮を執っていれば最悪、死ぬことだってあるんですから!」


 でもトミヒ様は、私の目を真っすぐに見つめて反論はんろんした。

「確かに、そうですね。でも私は、命をかけているんです。命をかけて、この百年続いている戦争を終わらせようとしているんです」

「それは分かります。でもそれじゃあ、私の気持ちは一体どうなるんですか?!」


「え?」

「もしトミヒ様が死んでしまったら、この戦争が終わったら私にしてくれるという大事な話を聞きたがっている、私の気持ちは一体いったいどうなるんですか?! 私はあなたに死んでほしくないんです!」


 この言葉に、トミヒ様は何も言い返せなかった。その代わりに、「そうですね、すみません……」と言い残してドアを開けてこの食堂を出て行った。私はそのドアを、ボーッと見つめた。そしてすぐに二階にけ上がり、ベットにもぐった、私は、混乱こんらんしていた。

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