第十二話

 大男は怒りの表情だったが、私は続けて言いはなった。ありったけの、勇気を出して。このままトミヒ様を、侮辱ぶじょくさせるわけにはいかない。

「あ、あなたはトミヒ様が、どんな気持ちで戦場で戦っているのか知ってるんですか?」


 すると大男は、せせら笑った。

「はあーん? 知らねえなあ。それじゃあ、アンタが教えてくれるのか、ねえちゃん?」

「そうですとも、そうですとも」


 だから私は、言い放った。両手を強くにぎって、気合きあいを入れて。この大男のこわさに、負けないように。

「ト、トミヒ様は百年間続いたこの戦争を終わらせようとしているんです! それも、この国の利益りえきのためだけではありません! 


 敵国であるガナス国にもこれ以上、犠牲者ぎせいしゃが出ないためです! そのためにトミヒ様は自分の命をかけて戦っているんです! あ、あなたはそれを知っているんですか?!」


 すると大男は、立ち上がった。お、大きい。わ、私よりも頭二つ分くらい大きい。それに太っていて、腕もあしも太い。そして、私にすごんできた。

「言いたい放題ほうだい言ってくれたなあ、ねえちゃん……。だが、覚悟かくごはできてんだろうなあ……」


 そう言って大男は、右腕をグルングルンと回し始めた。私は、直感した。あの右腕で、なぐられると。その恐怖きょうふに思わず目を閉じてしまうと、左肩に何かの感触があった。


 おそるおそる目を開けて見ると、私の右にトミヒ様が立っていた。そして私の左肩に、左手を置いていた。そしてトミヒ様は、大男に向かって話し始めた。


「このたびは私のれが、言いたい放題言ってしまって申し訳ない。私はこの国の国民である、あなたの意見を尊重そんちょうします。私は必ずこのヨミフ国を、この戦争に勝たせます。トミヒ・ヨミフの名にちかって」


 すると大男は、おびえた表情になった。

「ト、トミヒ様? ま、まさか本物のトミヒ様?」


 大男の隣にいた、小男も怯えだした。

「ほ、本物だ……。本物のトミヒ様だ……」


 と怯えている二人に、トミヒ様は続けた。するど眼光がんこうを、二人に向けて。

「さて。ここはこのヨミフ国の国民が食事をする、レストランです。もちろん、静かに。なので、あなたたちのように大きな声でお話をされては、皆さんに迷惑めいわくなんですが……」


 すると大男は突然、ペコペコし出した。

「い、いや~、そうですね~。酒にってしまったとはいえ、王族おうぞくの悪口を言ってしまうとは~。しかも、大声で。これはもう、俺は帰った方がいいかな~」


 そうして大男は、この店の出口に向かった。すると小男もその後を追いかけて行って、二人ともこのレストランから出て行った。


 やはりトミヒ様はこの国で大きな権力を持つ王族の一人で、しかもその才能さいのうも優れているので次の国王はトミヒ様ではないかとウワサされている。そんなトミヒ様に悪口を言ったのは、マズイと思ったようだ。でも、それを見ていたレストランのお客さんは拍手はくしゅをした。


「いいぞ~、トミヒ様!」

「ホント、ホント!」

「がんばって、戦争に勝ってください!」


 それらの声に一礼いちれいすると、トミヒ様はテーブルのイスにもどって行った。なので私もあわてて、自分のイスに戻った。するとウェイターが私たちのテーブルに近づいてきて、オレンジジュースを二つ置いた。それを見たトミヒ様は、疑問の表情になった。

「はて? 私は今日は、ジュースは頼んでいないが?」


 するとウェイターは、一礼した。

「これは当店からの、サービスでございます。先ほどは、ありがとうございました。いくらお酒に酔っていてもお客様はお客様なので、我々われわれからは強く言えないモノで。あ、もう少しでコース料理ができますので、これを飲んで少々お待ちください」


 そしてウェイターは、奥に戻った。それを見届みとどけたトミヒ様は、オレンジジュースが入ったコップを手に取って持ち上げた。

「ナヒコさん。せっかくなので、乾杯かんぱいしましょうか?」

「は、はい! もちろんです!」


 そして私たちは、コップを軽く合わせた。そうしてオレンジジュースを飲んでいると、ウェイターがコース料理を運んできた。メニューはトマトときゅうりとレタスの前菜ぜんさい、コーンポタージュのスープ、牛肉のハンバーグで肉料理、ミートソースパスタでメイン、そしてチーズケーキのデザートだった。


 やっぱりレストランだけあって、どれも美味おいしかった。でも私はいつものクセで、あー、牛肉のハンバーグかー、牛肉ってなかなか食べられないよねー、食堂で出してみたいけどどんな栄養があるのかなー、いやそもそも高い牛肉を使ったら五百ゴールドで作れないかー、などと考えてしまった。なのでトミヒ様に声をかけられて、私はわれに返った。


「どうですか、ナヒコさん?」

「え? あ、ああ。お、美味しいです、すごく美味しいです!」


 すると満足した表情になったトミヒ様はお会計をして、私とトミヒ様はレストランを出た。その時もやっぱり私は、今日の料理の値段ねだん一体いったい、いくらなんだろう? 値段に見合みあった栄養をれたのだろうかと考えてしまった。


 それはともかく私はまた馬車で私の食堂まで、トミヒ様に送ってもらった。あー、やっぱり歩かなくていいから馬車ってらくー、とか思いながら。そしてトミヒ様が馬車に乗って城まで帰る時に、私はお礼を言った。

「今日は初めて食べる料理もあって、勉強になり……、いや、美味しかったです、ありがとうございました」


 するとトミヒ様は、微笑ほほえんでくれた。

「なるほど、勉強になりましたか。それは、何よりです」

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