第十六話

 あ、しまった。さすがに六品は、作りすぎたか。私は、頭を下げた。

「す、すみません、トミヒ様。ちょっと、り切りすぎてしまいました……」


 するとトミヒ様は、微笑ほほえんだ。

「いえいえ、ありがとうございます。それにこれくらい食べてスタミナを付けないと、貴族きぞくとガナス国と交渉こうしょうできないと思うので」


 そうしてトミヒ様は六品の料理、すべてを食べた。そして、れいを言った。

「ふう。おかげで、スタミナが付いたような気がします」


 それを聞いて私は、ホッとした。

「そうですか、それは何よりです」


 そして立ち上がったトミヒ様は、聞いてきた。

「今回の料理は、いくらになりますか? さすがに、五百ゴールドは安すぎると思うんですが?」

「いえいえ。五百ゴールドで、かまいません。それが私に、ポリシーなので」


 するとトミヒ様は、再び微笑んだ。そして銀貨ぎんかを一枚テーブルに置くと、食堂を出て行った。「それでは、良い報告ほうこく期待きたいしてください」と言い残して。私はそんなトミヒ様、『がんばってください、トミヒ様』と心の中で応援おうえんした。


 そして七日後。我がヨミフ国の国王は、ガナス国との終戦しゅうせんを発表した。更にヨミフ国の貴族たちが鉄を取り出す工場を作り、鉄をガナス国に優先ゆうせんして売ることも発表した。また、戦争が終わったので、これからは税金を安くすることも発表された。私は、きっとトミヒ様の貴族とガナス国との交渉が上手く行ったんだなと思い、うれしくなった。


 ヨミフ国ではガナス国との終戦を祝って連日、花火が打ち上げられた。そしてこの食堂にくるお客さんたちも、喜んだりホッとしたり嬉しそうな表情になっていた。この国の雰囲気ふんいきは、確実に明るくなっていた。


 そんなある日、トミヒ様が食堂にあらわれた。少しつかれが見えたが、満足まんぞくそうな表情をして。私はトミヒ様を、ねぎらった。

「お疲れ様でした、トミヒ様。きっとトミヒ様の交渉が、上手く行ったんですね。みんなも喜んでいます。ありがとうございました」


 するとトミヒ様は、満足そうに微笑んだ。

「はい。何とか私が、むずかしい交渉をまとめました。でもそれはあの日、あなたが作ってくれた料理でスタミナを付けたからだと思います。私の方こそ、お礼を言わせてください。ありがとうございました」


 私は少し、うろたえた。

「いえいえ、そんな。交渉が上手く行ったのは、トミヒ様ががんばったからだと思います」

「いえいえ……。それでは、こうしましょう。今回の交渉が上手く行ったのは、あなたの料理と私のがんばりがげたモノだと」


 私はそれに、納得なっとくした。

「はい! そうですね!」


 するとトミヒ様は、急に真剣しんけんな表情になって話し始めた。

「ナヒコさん。あなたに、大事なお話があります」

「な、何でしょうか?」


「私は今回ほど、料理の大切さを感じたことはありません。私はこの国の、第一王子です。更に今回の交渉を成功させたので、次の国王はほぼ間違いなく私になるでしょう。でも国王の仕事は、大変ハードです。この国を平和的におさめなければなりませんし、他国とも交渉しなければなりません。その時はきっと、あなたの料理が必要になるでしょう」


 そこまで言ったトミヒ様は、片膝かたひざゆかについた。

「なのであなたにぜひ、私のきさきになって欲しいのです。私のため、いやこの国のためにどうか私に料理を作り続けて欲しいのです。私にはあなたの料理と、あなたが必要なんです」


 そして真剣な表情で、私を見つめた。私はこの話を、ことわる理由は無かった。でも、一つだけ心残こころのこりがあった。なので私は、トミヒ様にたのんでみた。


「ありがとうございます、トミヒ様。ぜひ、そのお話をお受けしたいと思います。でも、一つだけお願いがあります」

「お願い? 何でしょうか、ナヒコさん?」


 私は少し、ためらいながらもお願いをした。

「それは、この食堂のお客さんのことです。戦争が終わったとはいえ、まだまだ体の調子が悪い国民はいます。


 そういう国民には、まだまだ私の料理が必要だと思います。なので、お願いです。私がトミヒ様の妃になっても、この仕事を続けさせていただけないでしょうか?」


 するとトミヒ様は、戸惑とまどった表情になった。

「な、何ですと?! 妃になっても、この仕事を続けたい?! う、うーむ……。し、しかし妃がそんな仕事をするなど、前例ぜんれいがありません……」


 と、トミヒ様はこまった表情になってしまったが、私はやはりこの仕事を続けたかった。なので、頭を下げた。

「お願いします、トミヒ様。前例が無ければ、前例を作ってください」

「う、うーむ……」


 そして少しなやんだ表情になったトミヒ様は、答えてくれた。

「うーむ、分かりました。ナヒコさんが私の妃になっても、この仕事を続けても良いと私が正式せいしき許可きょかを出しましょう。何も、悪い仕事をしているわけではありません。いえ、むしろ妃が自ら国民のために働くのです。誰にも反対はさせません」


 私はそれを聞いて、安心した。私は愛するトミヒ様のために、ずっと料理を作ることができるからだ。しかも、この食堂の仕事も続けられる。だから私はトミヒ様の目を、真っすぐに見つめて伝えた。


「ありがとうございます、トミヒ様。私はずっと、あなたと国民を元気にするために料理を作ります。そしてあなたを、ずっと愛し続けることをちかいます」

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