聖女と勇者は子孫を遺さねばならない

聖女と勇者は子孫を遺さねばならない

「勇者セリアよ……。」

「ん、どうした聖女クラリス。まさか、またパンケーキを焼きすぎたとか?」

「違いますわ!そんなに頻繁に焼きませんわよ!この前はたまたま、たまたま三百枚ほど……!」


 この女、聖女のくせに血糖値が心配になるほど甘党である。

王国随一の聖女なのに、本人のカリスマはチョココロネのごとく緩やかだ。


「で、何の用?」

「わたくしと、子孫を、残していただきたいのです……。」

「へ?」


 パンケーキを吹きそうになった。

いや、ちょっと待て。

クラリス、真顔だ。

照れているが、言葉に偽りはない。

どこから突っ込めばいいのかわからないが、突っ込まないと死ぬ。


「子孫って、私たち、どっちも女なんだけど?」

「愛があれば乗り越えられると……書物にありました!」


 どこの本だ、それ!?

異世界恋愛指南書か!?

てかクラリス、おまえそれ絶対「禁断の魔導書」シリーズから読んだだろ。


「ちょっと待て、クラリス。聖女って、聖職者って、子孫とかダメじゃなかった?」

「ええ、原則的には。しかし――。」


クラリスは懐から一枚の紙を取り出した。


「王国法務局の許可が下りました。」


すげえな王国法務局。やる気出しすぎだろ。


「で、なんでそんなことに?」

「『勇者と聖女の血を未来に残すことが国家的使命である』とのことでして……それで……ええと……。」

「それで?」

「人工授精の研究が始まりました。」


国家が本気でやってた。


「いやいやいやいや!私は剣でモンスターを斬るのは得意だけど、そんな未来技術で子孫をどうこうなんて無理!あと私たち、付き合ってもないし!」


「では……お付き合いから始めましょう!」


 ……クラリス、ノリノリじゃん。


「クラリス、あんた本気?」

「もちろん!わたくし、勇者セリアが……その、好きですの!」


 ふわ、と彼女の頬が赤く染まる。

恥じらう聖女。

これはこれで新たなモンスターかもしれない。


だが――


「……悪くないな。ま、付き合ってみるか。」

「ほ、本当ですの!?」

「でも、一つだけ条件がある」

「なんなりと!」


私は真剣な顔で彼女に向き直る。


「パンケーキ三百枚は、マジでやめてくれ。」


こうして、聖女と勇者の恋愛は始まった。

国家的使命とパンケーキの重みを背負いながら――

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聖女と勇者は子孫を遺さねばならない @fuu349ari

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