猫みたいな女になりたい
九条なぎ
1. 一番好きな人と結婚する方法
一番好きな人と結婚する方法を教えてやる、と隣のクラスの担任が自信満々に語った。
進路集会という名の通り、教師たち自身も飽ききった表情で志望校だとか偏差値だとかの話を並べる中、彼は堂々と語った。既に生徒はほとんど寝ていた。
「2番目に好きな人と結婚して、その人を一番好きになる努力をし続けるんだ。」
さて、世の中にはこんな言葉も転がっている。
「一番目の人が本当に好きだったら、2番目はできない。」
つまり、すでに二番目の人ができた時点で、その人が一番好きなのである。彼は地理の教師だった。ひょっとするとなにかの宗教の勧誘なのかしら、と思った。インパクトの強い出だしに同級生の何人かが興味を示したが、すぐに首を傾げて再び夢の中に帰っていった。
私はこの話が好きだ。きっと彼は、一番好きな人と結婚できなかった苦い過去を引きずったまま別の人の手を取ったのだろう。そして彼はきっと、今の奥さんのことが一番好きである。奥さんを好きになる努力をしているうちに、きっと一番好きだったはずの女の下の名前は、記憶から姿を消している。
好きになる努力なんて、必要ない。本能で好きと思えるものには勝てないし、努力をしないと好きになれないようなものはきっと好きではない。と考える人間もきっと少なくないだろう。高校2年生だった当時の私も、その一人であった。
同級生がその話題についてすっかり忘れた頃も、私はなおその話題について考えていた。そして、思わぬタイミングで結論が出ることになる。
お相手を好きになる努力ではなく、もうどうしようもなく愛おしいと思えるような、恥ずかしくて、決して人には見せない部分を見つける努力なのである。
何番目に好きだろうと、そんな部分を愛おしいと思ってしまった人間より好きになれるものは、きっといないだろう。そしてきっと、一番好きでないとそんな部分を愛せない。
当時の恋人が、バカみたいな顔をして私の横でいびきを掻いている姿を見た時、そんな事を考えた。
猫みたいな女になりたい 九条なぎ @kairi0709
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