#4 友人は時に厄介である
長い長い一週間を終え、迎えた休日。
俺は近くの総合公園へと向かっていた。
「……暑いな」
今日は比較的涼しい日と聞いたので運動がてら来たが、普通に暑い。それでも若干涼しく感じるのは分厚い雲で太陽光が遮られていて直射日光に当たらないからだろうか。
とはいえ、今更暑さを憂いていたところで気温は下がってくれやしない。まだ家に置いてあったランニングシューズの靴紐をぎゅっと結び、ジョギングを始める。一応この後ある人物と合流する予定なのだが、かなり寝坊助な奴なのでジョギングは一人でやることになりそうだ。
そうして公園の外周を走ること数十分、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
『今公園着いたんだけどどこいんの?』
「噴水の近く」
『おっけーすぐ行くわ』
どうやら待ち合わせの相手は若干の寝坊で済んだらしい。普段は平気で1時間遅刻してくる奴なのでこれは快挙と言えよう。
「お、いたいた」
「よくもまあ数十分の寝坊で済んだな。明日は雨か?」
「会って最初に言う言葉がそれかよ」
この前から歩いてきたちょっとチャラ目の男こそが待ち合わせの相手、
茶に染まった髪を遊ばせ、ピアスを耳につけている見た目とは裏腹に意外と学のあるタイプのギャップ人間だ。
1年の頃からそれなりに仲が良く、クラスが離れた今でもたまに会うので学内唯一の友人と言って差し支えないかもしれない。
「ジョギング、もちろんお前もやるよな?」
「やらないと何のために頑張って起きたか分からなくなるからな、そりゃやるよ」
そう意気込む瑛太は上下スポーツウェアでガチガチの運動装備で来ているのに対し、こちらは学校で使っているジャージと中学時代の遺物であるトレパン……あれ、俺の方がやる気ない人みたいじゃないか?
「よし、走るか」
「……それはいいんだけど、クラウチングスタートでジョギング始めるのマジ?」
小ボケを挟んだ後にジョギングを再開。
瑛太も元運動部という身なのでスタミナ面ではほぼ俺と変わりなく、特に気を使わず走れるので心持ちはかなり楽だ。
「てか、ジョギング急に始めたのは何か理由ある感じ?」
無言でひたすらジョギングしていた中で、突然瑛太がそんなことを言ってきた。
「球技大会あるだろ、それのためだ」
「球技大会なんて所詮お遊びなのに真面目だなぁお前」
「別にソフトボールで活躍しようとか思ってるわけじゃないぞ。最低限動けるように、ジョギングぐらいはしておきたいってだけで」
それを聞いた瑛太はにやっと笑って「本当は女子にダサい所見せたくないんだろ?」と戯言をこちらに投げかけてくる。
「今更俺のダサい所を女子に見られた所で何になるんだよ……」
「宮村とか笠原にも?」
「あいつらはそういうのじゃない」
「もうそれ聞き飽きたぞ、正直な回答を求む!!」
とてもジョギングしながら話すような会話内容では無いので無視してやろうかとも思ったが、瑛太は一度このスイッチが入ると中々引き下がらないのは百も承知。
ああ、めんどくさい。
「で、結局どうなんだよあの2人とは」
話が脱線してついにはジョギングすら関係ない話になる始末。だが、実はこんな状況を打破する一手を俺は持っている。
「……瑛太は宮村にダサい所見せたくないのかもしれないけど、俺は違うからな」
途端、顔が少し火照る瑛太。
理由はまあ……語る必要も無いだろう。
「ず、ずるいぞ。その話するなって」
「なら黙ってジョギングに集中しろ」
「へいへい分かりましたよ……」
瑛太を黙らせて以降はスムーズにジョギングが進み、40分走った程度で休憩を取る事に。
自販機で買ったスポーツドリンクを瑛太に投げ渡し、揃って水分補給を始める。
「ぷはーっ!やっぱ運動した後のスポドリって飲料界隈No1だわ!」
「珍しくお前と同意見だ」
ペットボトル丸々1本をすぐに飲み切った瑛太は満足気な顔でベンチへともたれかかり、うーんと身体を伸ばしている。無駄に顔がいいせいで爽やかさを醸し出しているのが妙に腹だたしい。
「……俺さ、そろそろ本気で宮村にアタックしてみようと思う」
曇天の空を見上げながら、瑛太は半分独り言のように呟く。1年の頃からこの話を聞かされている身としては、瑛太がようやく一歩を踏み出したことに拍手を送りたい。
「そうか、頑張れ」
「……頑張るのは俺だけじゃないけどな」
「……?お前以外に誰がいるんだよ」
それを聞いた瑛太は、呆れとおかしさが混じったような笑いを浮かべる。
「ほんと、鈍感なやつ」
つい最近も別の人物に似たようなことを言われたような……まあ、いいか。
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