第四話 「いいにおいのはな」
あたたかな ひざしのもと、
コンは のはらを てくてく あるいていました。
つめたい かぜが ふわりとふいて、
こんの まえに
ちいさな しろいはなが ひとつ──
わあ……
コンは しゃがみこむと、
そっと かおを そのはなに ちかづけました。
ちいさなはなびらが かぜに ゆられて、
やさしく コンの はなさきを くすぐります。
おそらさん なんで このはなは、
こんなに いいにおいが するの?
そのとき──
かぜが やさしく まわって、
はなが すこし ふるえるように ゆれました。
そして、ふと コンのみみに
おだやかな こえが とどきました。
「こんにちは、コンくん。
わたしは ラマルクといいます。
はなや くさや むしを ずっと みつめてきたよ。」
やわらかい ちゃいろのコートを きて、
やさしいめをした ひげのおとこのひとが、
のはらのむこうから あるいてきました。
そのてには ふるいノートと ちいさなむしめがね。
ひかりに すかして はなを のぞいています。
「このはなが、いいにおいを だしているのはね──
“きてくれて ありがとう”って
いっているからなんだよ。」
ラマルクさんは はなのまえに しゃがみこんで、
そっと そのにおいを すいました。
「はなは あるいて いけないからね。
ちょうちょや ハチに きてもらわないと、
あたらしい いのちを つくれないんだ。
だから、においで こう よぶんだ。
『こっちだよ〜』って。」
ラマルクさんの にっこりしたかおに、
コンは 「へえ……!」と おもわず うなずきました。
「でもね、こんくん──
そのにおいを きみが かいだとき、
その“ありがとう”は、きみにも とどいてるんだ。
はなは ちいさいけれど、
においで やさしいことばを つたえてるんだよ。
こんくんが それに きづいたってことは……
きみも やさしい こころを もってるって ことだね。」
ラマルクさんは ゆびさきで
そっと ひとひらの はなびらを つまみ、
それを コンの てのひらに のせました。
こんは その ちいさな はなびらを
そっと たかく かかげて、
にこっと ほほえみました。
おはなさん、ぼくも──
“ありがとう”って いいたいよ。
かぜが さらさらと くさをゆらして、
はなは うれしそうに ゆれていました。
そらのした やさしいにおいが
のはらに ふわっと ただよっていました。
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