第五話 「いちごのあじ」
コンは にこにこしながら
ほっぺをおさえて おそらをみあげました。
おそらさん ぼく いちごが だいすきなんだよ!
かぜが ふわっと ふいて
ひなたのにおいが くさのあいだをとおりぬけました。
やわらかなこえが そらのむこうから とどきます。
「こんにちは、コンくん。
わたしは マザー・テレサといいます。
いちご、すきなのね。
それは とっても すてきなことよ。」
やさしいほほえみの おばあさんが、
そらのひかりのなかから
すこしずつ あらわれました。
ひらひらとした しろいヴェールが、
かぜにそよいで コンのすぐそばに ふれました。
「いちごの あまいあじはね、
“しあわせになってね”っていう あじなの。
だれかが このいちごを そだててくれた。
たいようと みずと そらが
このいちごを はぐくんでくれた。
そしていま──
その“しあわせ”を コンくんが
ちゃんと うけとってくれているの。」
コンは てのひらのうえで
つやつやのいちごを ころがして、
じっと みつめました。
ちょっぴり にやけて、そして──ぱくっ!
んーっ!やっぱり おいしい!
「それはね、コンくんのこころが やさしいからよ。
おいしいって かんじるとき、
それは いのちや ぬくもりを
しっかり うけとっている あかしなの。
そしてね、
その“おいしい”っていう しあわせを
だれかと わけあえたら──
それが、いちばん すてきな“ごちそう”なのよ。」
テレサさんは そっと てをあわせて、
やさしく うなずきました。
そのうしろでは そらが、
ぽかぽかと わらっていました。
ねえ、テレサさん。
じゃあ──いっしょに たべよ!
コンは、いちごを そらにむかって
そっと さしあげました。
テレサさんは ほほえみながら、
かすかに うなずいたような きがして……
コンは、いちごを ひとつぶ ぱくり。
そらを あおいで いいます。
いま、なんだか──“ありがとうのあじ”がするよ。
そらは、まっしろな くもを
そっと よこぎらせて、
コンのほっぺに そよ風を ひとつ
おくりました。
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