第二話 「かぜのおと」

のはらに すわった コンは、

くつひもを なおしながら、

ふと かおを あげました。

そらのむこうから

やわらかい かぜが とおりすぎます。


おそらさん なんで かぜは、

ビュービューって いったり、

ヒューヒューとか ファーッて おとがするの?


かぜが また ふっと ふいて──

そのおとが コンの みみのなかに、

そっと とびこんできました。


──ヒュウウ……ファァァ……ビュオッ


なんだか ことばに なりそうで ならない。

でも こころのなかで ひびいてくる。

こんは くびを かしげながら そらを みあげました。


「こんにちは、コンくん。」


そのこえは おとみたいに

すっと ふってきました。

 

そこには くろいうわぎをきた

おじさんが たっていました。

 

かみは くるくる めは きりり。

でも すこしだけ

かなしいような やさしいような──

そんな まなざしでした。


「わたしは ベートーヴェンです。

おとの せかいで うたを つくっていたよ。」


おじさんのうしろで きぎのあいだから

ひかりが ちらちらと もれて、

そのたびに ちいさな

かぜの おとが きこえてきます。


「コンくん。

かぜがね ビュービューって いったり、

ヒューヒューって ささやいたり、

ファーッて おどるみたいに なるのはね──」


ベートーヴェンさんは そっと

コンのかたを ふれて、

のはらに すわって

いっしょに そらを みました。


「それは かぜが、

いま なにを かんじてるか、

こっそり おしえてくれてるんだよ。」


そのことばをきいて、

コンの こころのなかが、

すこしだけ きゅんって なりました。

 

まるで なにかが、

つたわってきた みたいに。 


「かぜが つよいときは ビュービューって あらぶる。

さみしいときは ヒューヒューって ないてる。

うれしいときは ファーッて うたってる。

おとってね みえないけど──

こころには ちゃんと とどくんだ。」


ベートーヴェンさんは てを みみに あてて、

まるで なにか きこうとしているように、

そっと めをとじました。


コンも まねをして

そっと みみを すましました。

 

まつげが ふるえるほど しずかに。


──ヒュウ……ヒュウ……


それは どこか とおくの ともだちが

「ここにいるよ」って

ささやいてくれている みたいでした。


コンのめが ぱちっと ひらきました。

うれしそうに ふりかえって、

ベートーヴェンさんに いいました。


……かぜって ことば しゃべれないけど、

ちゃんと おはなし してくれてるんだね!


ベートーヴェンさんは にっこり わらいました。


「そう。

そして コンくんが それを きけるってことは、

きみの こころが やわらかく すなおで、

ちゃんと  きくちからを

もってるって ことなんだよ。」


そのとき かぜがまた ふわっと ふいて──

こんの かみのけが、

ふわりと そらへ のびました。


コンは かぜにむかって うれしそうに いいました。


ありがとう……かぜさん。


そして ほっぺに

かぜの キスを もらって、

にっこりと わらいました。

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