第一話 「おそらって、どこまでつづくの?」

ねえねえ おそらさん。

おそらさんって どこまで ひろいの?


みどりの のはらに ごろんと ねそべって、

コンは まぶしい そらを じっと みつめました。

かぜが ほっぺを やさしく なでると、

コンの こころも ふわっと ほどけていくようです。


こんなに ひろいのに、どこまでって あるのかな……


そう つぶやいたとき──

ふと そらのむこうから

やわらかい こえが きこえてきました。


「こんにちは コンくん。

ぼくは ガリレオ・ガリレイだよ。

むかしむかし よるの おそらを

ながめるのが だいすきだったんだ。」


コンは おどろいて、

くびを ぐいっと もちあげました。

 

そこには──

 

しろくて ふわふわの

ひげを はやした やさしいめの おじいさん。

 

そらのなかから すーっと あらわれて、

ながくて きらきらした

のぞきめがねを てに もっています。

マントが そよそよと そらのかぜに ゆれていました。


「おそらさんはね、

どこまで いっても おわらないんだ。

とおく とおく ずーっと つづいてるよ。」


ガリレオさんが ゆびさしたほうを

コンも のぞきこみました。

 

そらには ほそい しろいくもが ながれていて、

そのむこうに ちいさなほしが

またたいているのが みえました。


「ちいさなほしが たくさんあって、

もっとそのさきにも ほしがあって、

まだまだ そのさきにも

たくさん たくさん あるんだ。」


そのことばに コンの むねが どきんと しました。

こんは そっと てを おなかのうえに おいて、

「そんなに たくさん……!」と

くちのなかで つぶやきました。


ガリレオさんが のぞきめがねを そらにむけると、

こまかいほしのこえが

ひそひそと きこえてきたような きがしました。

 

──コンは、きいてみたくなりました。


おそらさんは、

ぼくが どれだけ かけっこしても、

まだまだ もっともっと つづいてるの?


「そうさ、コンくん。

だからね きみが どれだけ おおきくなっても、

ずーっと あたらしい はっけんが できるんだ。」


ガリレオさんの やさしい ほほえみは、

まるで つきのあかりみたいに

コンのむねに とどいて、

こころのなかが ぽかぽかに なりました。


こんは すこしだけ はずかしそうに うつむいて、

でも、うれしそうに ほほえんでから──

 

そっと ききました。


ガリレオさん……ぼくも いつか、

とおい おそらに いけるのかな?


かぜが また ふわりと ふいて、

くさが さらさら うたいました。

そのなかに まぎれるように、

やさしい こえが とどきます。


「もちろんだよ コンくん。

きみが おおきくなったら、

きっと とおい おそらにも いけるよ。」


「ロケットに のって

ぴゅーんって いくかもしれないし、

おおきな のぞきめがねで

星たちを そっと のぞくことが

できるかも しれない。」


ぴゅーんって……!

 

コンは つい くすっと こえを もらして、

くびを のばして そらを みあげました。


「でもね、

コンくんが おそらを だいすきな ままなら──

ここに いながらでも こころは

いつでも とおい とおい おそらに とどくんだよ。


「だいじなのはね、

しりたい!っていう きもちを

ずーっと もっていること。


そのきもちが あれば、

どこにだって いけるんだ。」


そう いって ガリレオさんは、

そらの むこうに ゆっくりと てを のばしました。


それを みた コンも、

ゆっくりと うでを のばしました。

 

そらに とどけ、と おもうように。

 

そらは ひろくて あおくて、

すこし つめたくて──

でも とっても きれいで、

どこまでも つづいているように みえました。


コンのこころには、

まだみたことのない ほしのこえが、

すこしずつ しずかに ひびいていました。

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