となりの聖女
@komugiinu
第1話
1
私は教会に暮らしている聖女です。
悪役令嬢のお屋敷とは、お隣同士です。
彼女のご両親(侯爵様夫妻)は、教会とお近づきになりたいから隣に屋敷を建てたわけで、
とても信心の深い人たちでした。
そんな良心の塊のような家庭で育てられたのにもかかわらず、1人娘は性格が悪かったのです。
それで侯爵様夫妻は私にお願いに来ました。
“このままではうちの娘が悪役令嬢に育ってしまう。
どうか聖女のあなたが、友達になって
うちの娘を良い方向に導いてはくれないだろうか?”
巨額の寄付金とともに、
私と彼女は毎日のように一緒に遊んでいました。
その結果
彼女は私の性格に近づき、
私は彼女の性格に近づき、
程度の差こそあれ
2人とも清濁併せ持つ、素晴らしい人格に育ったのでした。
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やがて私たちは、学園に通うようになった。
そこにヒロインの“花の乙女”が転校して来た。
こいつは性格が悪いに違いない、
引っ越してきても、教会に挨拶にも来ないから、
私が直感した通り
花の乙女は20人くらい男子を引き連れて
学園内を大名行列するようになった。
彼らには、ほとんど婚約者がいる、
つまり、
隣の屋敷の悪役令嬢(王子の婚約者)をはじめ、
20人近くの令嬢が陰で泣いていたのだ。
貴族の息子たちは貴族教育とやらで、鷹揚に育てられる、
だからみんな仲良しで、花の乙女をみんなで愛でていれば満足していた。
私は行列の1番後ろを歩いて、乙女のつむじしか見えない男に目をつけた。
その男は、名前をレオといい、大きな商家の息子で、平民だった、
多額の寄付金と本人のクオリティーで入学できたのだ。
そう、彼は貴族教育を受けていない、
成金の商家特有、上昇志向は強いのに周りの貴族たちに阻まれているのだ。
「ねえあなたはこの行列の最後尾のままでいいの?」
彼は悔しそうに私を睨んだ。
「そんなわけないだろう、
俺は、彼女を自分だけのものにしたいんだ、
でも貴族でもない俺にはそんなことはできない。
だからこうして後ろをついて行って、彼女が時々振り返ってくれるのを待っているんだ。」
こいつ使える!
「それなら私と付き合えばいいのよ。」
「どういうことだ?」
「いいからこのまま2人で話していましょう、
そうすれば彼女が振り向くわ。」
急に大名行列が止まった。
「あら、あなたたち、後ろの方で何を話しているの?」
花の乙女は振り返った。
「ほらね」
この男(レオ)にも私にも婚約者はいない
問題はないはずだ。
その後、私たちはこれ見よがしに、花の乙女の前でベタベタした。
乙女はそれを見るたびに不快な顔をした。
「おまえスゲーな、
花の乙女様が、今度2人で会いましょうと言ってくれたんだ。」
(乙女様だと?)
「人は逃げるものを追いたくなるものなのよ。」
「で、これからどうすればいいんだ?」
「まだ甘い顔を見せちゃダメよ」
花の乙女は媚びるように笑った。
「ねえ、私と2人っきりデートなんて特別なオプションなのよ、嬉しいでしょう。」
「ああ、でも聖女ちゃんのほうがいい女だから、」
「なーんですってえ⁉︎」
一方、悪役令嬢の方は
困っている婚約者たちを集めて策を練った。
「“花の乙女は、貴族であるあなたよりも
平民の殿方に夢中のようですね。”
と言うのよ。」
貴族の男はヘタレだが
プライドだけはやたらに高い、
婚約者の令嬢たちは、花の乙女が自分たちではなく、平民の男に執着していることを強調した。
「ふん、平民に愛想を撒いている趣味の悪い女などは、私の好みではない!」
もちろん痩せ我慢だが、言質はとった。
大名行列は崩壊し始めた。
花の乙女は焦り出した。
(チッ、そろそろポーションの効き目が薄くなってきたかな?)
乙女は人目を避けるように外出した。
私とレオは後を追い、彼女が出入りしている店を突き止めた。
暫くすると、
彼女は怒ったように店から出てきた。
「何だこの店は?」
「みんなを夢中にさせる、違法なポーションを売っている店よ。」
「これで俺たちを操っていたのか?」
「そうよ、目が覚めた?」
「お客さん、うちは会員限定だからね
出て行ってください。」
「今の彼女は、大層怒って帰ったみたいだが?」
「ああ、ここんとこの物価高でね
持ち合わせが足りなくて、ポーションが買えなかったのさ。」
レオはすっかり目が覚めたようだ。
「いい方法がある、この店を、丸ごとうちで買い取っちまおう、
何しろ金はあるからな。」
「彼女はもう、お金が足りないから、
この店は利用できないはずよ」
「金なら俺が貸してやればいいのさ。」
「何ですって、裏切り者!」
貴族のプライドもポーションには敵わなかったらしい、
次の日、またあの大名行列が始まった。
「あんたのせいよ!」
「俺は飲んでないぜ」
「でも他の人たちは困っているわ」
「何で自分のことでもないのに
必死になるんだよ」
「友達だからだよ!」
「変なヤツ」
「心配ない、
あの店は、俺んとこで買収したから、
ついでに違法なあの惚れ薬は、
1日経つと効き目が切れるものに全部置き換えておいた。
明日になれば、あのハーメルンの行列みたいなのはなくなるぜ。」
「そしたら、乙女がまた買いに来るだけじゃないの!」
「毎日買ってたら、金がなくなって
俺のところにまた借りに来る、
借金が雪だるま式に増えるってわけだ。」
私ははっと気付いた、
「そうやって借金で縛って、花の乙女を自分だけのものにするつもりだったの?
サイテー、闇金融の極悪人!
見損なったわ!
大嫌い!」
「いや、違うって、
ちょっと待てよ!」
まもなく借金が返せなくなった花の乙女は
レオのお祖父さんが運営する
TIグループの黒服に連行され、
地下の強制労働施設に送られた。
そこはぺ○カとかいうお金しか使えないらしい。
「薬の効き目も無くなって、みんな元に戻って良かったね。」
「オホホ、それどころか、彼ら(王子たち)は、
もう私たちに頭が上がらないわよ、
愉快だわー」
おお、さすが悪役令嬢だ。
(みんな婚約者が戻ってきてハッピーエンドみたいだけど、
私はレオの話を聞きもしないで、
“大嫌い!”って言っちゃったからなあー)
「おい聖女、何黄昏てるんだ?」
え、
私は振り向いた。
「今日はおまえに、ちゃんと最後まで聞いて欲しい話があるんだ。」
そこには大きな花束を抱えたレオが立っていた。
となりの聖女 @komugiinu
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