第2話 フサフサと肉じゃがとスケスケ

「何作ってるんですか、部長」


 我らが錬金術部の部長、真戸マド一番星ヒトセ

 今日も怪しげな釜の中を、長い棒でぐーるぐるとかき混ぜている。


「おや?ルイくん、おはよう。教員室に用があったんじゃなかったのかい?」


「ええ、用事は済みましたとも。部長含めた先輩方の悪行の謝罪をしてきましたよ」


「悪行とは失敬な、善意だよ善意。この前の生え薬だって、学園長は喜んでいただろう?」


 確かに、学園長が喜んでたおかげで“頭に草が生える薬を盛った”件はお咎めなしだった。

 それ以外にもやらかしまくってるので、1つ減ったところで状況は変わらないが。


 「あの金色のフサフサ、どうなってるんですか?絶対、髪の毛じゃないですし。自由自在に動いてましたよ」


 今朝、校門前で学園長が掃除しているのを遠目に見かけた。

 僕が手を振ると、フサフサが――もとい、“手の形”をしたフサフサがヒラヒラと応えてくれた。

 なんだ、あれは。


「あれはフサフサ。それ以上でも以下でもないよ」


 平然とした顔で、ぐーるぐると釜をかき混ぜ続ける部長。

 この人、真面目にヤバい。


「というか、あの薬は“頭に草を生やす”はずだったんだがね。天才たる僕も、予想外だったよ」


「いや、危ないじゃないですか!今すぐ元に戻す薬を作ってください!」


「金色の豊穣を蝗害にやられた悲しい大地へと戻す気か?学園長も喜んでいたのに、なんて残酷なことを言うんだ」


「……あれって元は“草を生やす”薬ですよね。除草剤、効きますかね」


「いや、人の頭に除草剤とか、さらっととんでもないことを言うな君」


 フサフサに乗っ取られた学園長が暴れたらどうするつもりだ、と本気で考える僕。


「そういえば、話を戻しますけど。何を作ってるんですか?まさか、また惚れ薬とか言わないですよね」


ぐるぐるグルグルくーるくる


「あれは作ったら、君が『責任持って処分してください!』って言いながら僕の口にねじ込んで、ロープで絞り上げてくれたじゃないか。大変だったんだぞ、あの後。変な癖に目覚めたらどうしてくれる」


 そう言いながら、鍋に黒い液体、透明なとろみのある液体、そして一升瓶らしきものを丸ごと投入。


 いや瓶ごと!?


「何入れてるんですか!」


「ん?しょうゆと味醂、そして酒だが?」


「肉じゃがですか!肉じゃが作ってるんですか!?」

 いや、肉じゃがでも瓶ごと入れないだろ。


「そんなわけあるか。それだと入れるタイミングが違う」


 タイミングの問題じゃありませんよ、部長。


「ほら、完成するぞ」


 鍋の中身がペカーッと眩く光る。

 光が消えた時、部長は躊躇なく鍋に手を突っ込み、取り出した。


「完成だ!」


 手に握られていたのは、綺麗なガラス瓶に入った琥珀色の液体。

 薬瓶らしき容器の瓶、妙に完成度が高い。


「いや鍋いっぱいの液体がこんな小さな瓶に?なぜ薬瓶入りで出てくるんですか」


「わからん、なんかできた」


 わからん、じゃない。


「液体はともかく、なぜ瓶入り?」


液体はまあわかる、濃縮何たらだ


「ん?さっき材料入れただろう」


 あの酒瓶のことか。納得できるか、説明になっとらん。


「で、これなんですか?」


「フッフッフ、聞いて驚くことなかれルイくん。これは男の子の永遠の夢!」


「惚れ薬ですか」


「君、実は惚れ薬好きだろ。違うぞ」


 ニマァとエロ顔――もとい、やらしい顔で瓶を見せつける部長。


「これは、『服を溶かす薬』だ!これでスッケスケだぞ!」


 僕はそっと瓶を掴んだ。


「おや、やはり興味があるのか。仕方ない奴だ。誰に使いたいんだ?お勧めはキノあたりが着痩せするタイプだと……」


 中身を部長の頭の上からひっくり返してやった。


 


 その後、部室から「私が一体何をしたっていうんだ……」と、クスンクスンと嘘くさい泣き声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。

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