第6話 鬼攻略法

「ラーメンを提供する私達の気持ちなんてお客さんには関係無いかもしれません。ただ、ラーメンを食べたお客さんが笑顔になって帰って行く。それは僕らの熱が伝わったと言う事だと僕は思います。」

その言葉だけを残し鬼は背を向け、去っていった。


鬼との会話をきっかけに、篠田は鬼攻略法を思いついた。


「“温度”とは、数値じゃない。食べる人に届く“熱”だ」


厨房に戻った篠田は、店のスタッフたちに頭を下げた。


「……俺は、“ラーメンを温かく出す”ってことを、表面だけで理解してた。ただ、それは大きな間違いだった。ラーメンに本当の熱を入れたい。お前たちにも協力してほしい」


今まではただレシピ通りに半ば機械的に動いていた厨房の雰囲気が変わった。


「次、麺上げ5秒前! スープスタンバイ!」


「はい、チャーシュー温め完了!」


「よし、着丼!」


声を出し気持ちを乗せていく。その積み重ねが、篠田の目指す“熱”につながっていく。


しかし、まだ何かが足りない──。


閉店後、篠田は、ふと棚の奥から見慣れない封筒を見つける。


中にはレシピが書かれたノート。その1ページに走り書きがあった。


「“お客さんが一口目に笑えるように”──そのために、この温度、この順番」


ページの端には、名前が書かれていた。

「静岡南店店長:神山一徹」

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