第2話 鬼

試験当日。都内の本社ビルの1室に設けられた試験会場


篠田の調理が始まった。


篠田は震える手でチャーシューを炙り、麺を茹でる。全ての工程は録画され、音も記録されている。


完成したラーメンが5つの試食テーブルに運ばれると、4人の役員たちはにこやかに箸を取り、美味そうにすする。


「うん、美味い! これは10点だね」


「バランスが取れてる。満点だよ」


だが、1人だけ。


最奥の椅子に座った男──スーツ姿、腕組みをしたまま目を閉じたまま箸を持とうともしなかった。


彼の名前は不明。役職も、肩書きもない。

ただ店長の間では噂だけが広まっている。


「……あれが“鬼”か……」


篠田がかつて先輩店長から聞いた話では、彼は食べる量もほんのわずか、そして必ず“他の審査員が食べ終わった後”最後に手をつけるという。


役員たちが食べ終わり、談笑を始めるとようやく箸を取り、一口スープをすする。次に麺を、ほんの一口。


そして、無言で札を掲げた。


「8点」


会場が静まり返る。役員の一人が苦笑いを浮かべた。


「これは……何が足りなかったんでしょうね?」


鬼は、口元を拭って1言だけ


「温度が落ちていた。」と


その言葉は、篠田を更に混乱させた。


美味いラーメンを作るだけでは、鬼の満点は取れない。


篠田は鬼から満点を獲得するべく動き出すのだった。

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