第3話 温度の壁
試験から戻った翌日。
篠田は厨房に立ちながら、スープを見つめていた。
「……温度が落ちていた? いや、茹でたての麺だった。スープも温かいはずだった」
副店長の今井が声をかけてくる。
「どうしたんです店長?ずいぶん悩んでますけど」
「いや、昨日の試験で“鬼”に言われたんだ。ラーメンの温度が落ちていたって……」
「……あの都市伝説みたいな審査員ですよね。温度なんて、作ってすぐ出せば落ちるはずないですよ」
篠田は首を横に振った。
「違う。落ちてたんだ。確かに俺は、最後のトッピングで迷った。チャーシューを炙りすぎた。
その間に……スープが冷え始めてたんだ」
今井が言葉を失う。
篠田は立ち上がると、奥の冷蔵庫から温度計を取り出し、ラーメンの再現を始めた。1秒ごとに温度を測る。盛り付けの順番を変えてみる。器の保温時間も記録する。
「ラーメンは生き物だ」
昔、ラーメン修行時代に言われた言葉が頭をよぎる。
『味』は“誰にでも作れる”。
でも『美味しいまま提供し続ける力』こそ、チェーン店に必要なものなんだ。
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