第2話 再会した友人と
あれから数年、私は専門学生になった。
小学生時代についた嘘を心の奥底に閉じ込め、もう嘘なんてつかないと思いながら過ごしていた。
製菓の学校を選び、私は朝早く家を出てお菓子作りの朝練習をし、その後授業を受け、放課後は夜遅くまで復習に励んでいた。学生らしい忙しい毎日だった。
ただ、たまに息抜きの時間もあった。週末には仲の良いクラスメイト数名と集まってご飯会を開いた。県外から引っ越してきて寮に住む子も多く、ご飯会は一人暮らしの子の家で行うのがルールだ。こっそり手に入れたお酒や好きなジュース、授業で作ったお菓子を持ち寄り、地元料理を作り合った。お菓子について語り尽くし、何の話をしたのかも覚えていないほどたくさん話した。時には恋愛話にも花を咲かせた。
ある日のご飯会に、遥が参加した。そう、小学生時代にミニバスのキャプテンをしていた女の子だ。遥とは高校は別だったが、たまたま同じ専門学校で、しかも同じクラスになり「縁があるね」なんて話す内、気づけば専門学校で一番仲のいい友人になっていた。
今回のご飯会はそんな遥の恋愛相談会。同じクラスの男の子が気になっているようで、夜遅くまで今後どうするかなど恋愛の話をして過ごし、終電前に解散した。私と遥は最寄りの駅まで一緒に歩く事になったので、他愛無い話をしながら歩いた。
「ねえ、好きな人いないの?」
遥からの突然の質問に私は困ってしまった。言ってもいいのか、言わない方がいいのか、そう考えて焦る私を見た遥は「変なの」少し困ったように笑っていた。それからすぐ駅に着き、私と遥はそれぞれ電車とバス乗り解散した。私は帰りの電車の中で「あの質問にどう答えるのが正解だったのか」と考え込んでいた。
好きな人はいる。
ただ、その人は女の子だった。
昔から特に好きな人はいなかったが、気になるのは女の子ばかりだった。それがレズビアンだと知ったのも、自分自身がそうだと確信したのも、つい最近。だからこそ気軽には言えなかった。そもそも、どう伝えたらいいかも分からなかった。
この事をカミングアウトしていたのは、ネットの掲示板で知り合った同じレズビアンの友達くらい。だから、また機会があれば伝えよう、私はその程度でのんびりと考えていた。
それから三カ月――。
専門学校に入学してから十カ月が経ち、学年末試験の時期が近づいてきていた。製菓の学年末試験では実技試験が行われるので、皆んないつも以上に放課後の練習回数が多くなる。二人一組でテーブルを使う為、練習前にテーブルの確保が必要なのだ。
私はいつも通りテーブルの確保の為、授業終わりに走って実習室に向った。狙っていたテーブルには「一緒にやろ」そう口パクで手招きをしている遥がいた。
放課後の実習室は自由に練習できるので、各々の自分の苦手な実技を練習する。私はテストのメインでもあるパウンドケーキの練習をしていた。
「この前、告白されて付き合い始めたよ」
泡立て器の音や話し声で少し聴き取りづらかったが、嬉しそうに遥が言った。「あ、そうなんだ」この前の会話をすっかり忘れていた私は、少しそっけない反応をしてしまった。暫く無言の時間が続いたが「私もさ、好きな人いるよ」――無言の時間の気まずさに負けて口に出ていた。
「違ってたらごめん、好きな人って女の子?」
突然の質問に私は作業する手が止まり、冷や汗が出た。周りの音も静かに感じるほど焦っていた私はどうしたらいいのか分からず無言だった。
「大丈夫、大丈夫、分かってたよ」
遥は無言の私に笑いながら一言伝えた後、何事もなかったように作業に戻っていた。
その後、学年末試験を終えた私は無事二年生に進級。
クラス替えもあったが遥とはまた同じクラスになった。大きく変わったのはあの放課後の練習の話し以来、自分がレズビアンということを無理矢理隠そうとはしなくなったことだ。
ただ、両親には言えてなかった。
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