嘘つき

きりんくま

第1話 小さな嘘から

私は子供の頃から小さな嘘をよくついていた。

 

「龍がいる」

「コックリさんはいる」

「魔法が使える」


 思い出すだけても少し恥ずかしくなる、子供っぽい嘘。しかし、この小さな嘘に紛れて、自分を守るような嘘もついていた。


「バスケしてみない?」

小学六年生のある日、四組の林先生に誘われた。身長が高かった私をずっと誘いたかったようだ。「放課後に体育館で練習してるんだ、もちろん練習すれば大会にも出れるよ」説明している先生の後ろに、当時ミニバスのキャプテンをしていた同い年の遥がいた。無口な遥は林先生の後ろで小さく頷きながら私の反応を見ていた。

 実はこの時、小学二年生からずっと続けていたスイミングスクールを辞めたばかりだった。その他に習い事もしていない私は「やりたい」と一言。親にも相談せず、誘ってもらえた嬉しさだけで決めた。


 勢いで始めたミニバスの練習は想像以上に辛かった。自分よりも小さな子たちが、黙々とボールを扱う姿に圧倒された。


 ミニバスを始めて約半年経った頃、私は人生初めて自分を守る嘘、いや、逃げる嘘をついた。

 

「おい!なんであそこでパスをしなかった!もっと上手くやれ!」

練習でも試合でも上手くプレー出来ず、コーチの林先生に髪の毛を掴まれて度々怒鳴られた。今思えばパワハラどころの話ではないが当時はこんな指導は当たり前だった。

 

「なんでこんなに怒鳴られるのか分からない、もう辞めたい」そう思った私は親に相談しようとしたが「こんなことも続けられないのか」そう父に怒られてしまうのではないかと思い出来なかった。


 ある日の放課後。

 いつも通り学校が終わり、帰宅してミニバスの準備を終わらせて、玄関で靴を履いていた私の手は震えていた。そう、この日嘘をついて練習をサボろうと決めていたのだ。

 

「いってきます」

いつも通り家を出た後、私は学校の体育館には行かなかった。どこに行ったかのかはっきりとは覚えてない。「見つからないように」子供ながらに隠れながら散歩でもしていた気がする。そして辺りが暗くなった頃に家に帰った。

「どこ行ってたの?」

玄関を開けると、眉間に皺を寄せ怒っている母が立っていた。私は泣きながら「知らない人に連れさられそうになった」そう答えた。もちろん、それは作り話だった。

 母は警察に電話した。気づいた頃には大事、家には警察が三人、父も帰宅し、詳しく状況を聞かれた私は必死に作り上げた作り話を話した。一通り事情聴取が終わり、何もかも上手く行ったと思った。

 

 正直、なぜあんな事をしたのかは覚えてない。ただ「もうバスケを辞めたい」そう話した時に、両親が優しく頭を撫でて抱きしめてくれたのが嬉しかったのは覚えている。


 後日、父から「話しがある」と呼び出され、車に乗ると、そのまま警察署に連れて行かれた。何が何だか分からなかったが「嘘がバレた」そう感じた私は車の中で泣きながら謝った。

 警察署の取り調べ室のような部屋に着いた後、父と警察の人に囲まれ、分厚い辞書のようなものを開いて見せられた。「嘘は駄目だよ」そう辞書の中身を指差しながら優しい声で話す警察の人、呆れた顔の父を前に「ただサボりたかった、ミニバスを辞めたかった」そう全てを話した。事件性が無かったからか子供だからか、その後のお咎めは無かった。

 

 恐らくこんな大事、子供だからと言って許されることではない。ただ素直に「辞めたい、怖いものから守って欲しい」そう伝えれば良かっただけなのに。小さな嘘が大きな嘘になってしまった。


 いや、物心ついた時期から両親の顔色を伺い、周りを気にする性格だった私にはどのみち初めから素直に話すことなんて無理だったのかもしれない。

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