3機目
「!?」
気が付くと近くの海岸で僕は倒れていた。
「目が覚めたのね。さっきはありがとう。まさかあなたが私のグベルニーターになる素質があったなんてね。奴らが知ったらなんて思うかしら。」
僕の横に腰を下ろしていた謎の少女がこちらに話しかけてきた。改めて彼女の顔を見る。できれば全て純粋な理由でありたかったが、さっき手を貸した理由の中に一目惚れもあったのかもしれない。それぐらい彼女は綺麗だった。
「そういえば、君の名前きいていなかったね。君はあのヴァーニマエなんだろ?その正体には驚いたけど。」
「私?私の名前かぁ…。人としての名前は私には…ないの。む、昔のことも思い出せない。いつどこで生まれたのかもね。あっちで私は『特殊人型試作実験用ヴァーニマエ』機体コード:ヴァ―チューズって呼ばれていたわ。で、私の秘密とか、ヴァーニマエについてとかはおいおい話すわ。それよりもあなたは何者なの?どうして私を扱えたの?」
やはりだ。あの1年前、世界中で流れたあの映像にいた存在と同じ存在の正体がここにいる。そんな彼女が最後の方、かなり食い気味で話しかけてきた。
「あぁ、僕は神楽琉翔。ここら辺に今は一人で住んでいるしがない高校生さ。それから、なんで君を扱えたのかは本当に知らない。けど、どこかで、なんか見たことある配置だったんだよね。」
「そう。やはり分からないわよね。それからなんだけど、神楽って、あの神楽なの?」
「え?あぁ。そうだけど、そうじゃない。僕は養子なんだ。昔、孤児院的なところから今は亡き義父に拾ってもらったんだ。ただ、僕がどこで生まれて、誰に育てられて、捨てられたまでは僕は知らないんだ。そして、今はあまり…、いや。ここからいいや。」
そう神楽家はこの国では知らぬ人はいないほどの大企業神楽グループの経営者一族だ。現在は僕の故義父の兄が経営者を務めている。子のいない今の経営者に代わって次の経営者になる資格一応を持つ僕だが、義母からよく思われていない。
義母は実の娘に継がせたいらしい、実際そうして欲しいが、その娘が問題なのだ。
僕を許婚に選び、認めなければ会社は継がないと言っているのだ。なんでこんなことを言っているのかは分からなくはないが、面倒なので、僕は家を出てきた。
これに義母は喜び大量に資金をくれた。そして、もっと優秀な別の男を探し、娘の婿にするつもりだろう。
「あなたにも何か重い事情があるのね。まぁ、それ以上は詮索しないわよ。」
「気にしてくれて、ありがとう。でもいいんだ。実際この名字だと、何かと便利だし。」
何も知らない同級生が家の名目当てでたくさん寄ってきたりするのが面倒なことを除けばだけどね。ところで、あなたにもっていったけど、この子にも何か思い所以上があるのか?
「あぁ、そうだ。そんなことより君の呼び方なんだけど、柚 はどうかな?」
「ゆず…。いい名前ね。気に入ったわ。私はゆず。よろしくね、るか。」
差しだされた手を握り返した。固く結ばれた手はこの先の運命を暗示しているかのようだった。
「あぁ、こちらこそよろしく。ところでなんだけどさ、これからどうするんだ?まだ君は追われ続けるんだろ?」
「そうね。これは逃げてきた宿命。逃れることはできない。でも、私は本当の私を見つけるまで、死ねないの。」
「だったら僕も…」
「いたぞ!ヴァーニマエだ。グベルニーターもいるぞ!」
僕が言いかけたその時、背後から声がする。振り返るとそこには謎の団体がいた。
とっさに柚の前に立ち、彼女をかばう。
「ほう。戦わないか。聞いた通り君たちは我々の味方となるのかどうなのか?」
集団の中から一人のガラの悪そうな大男が現れた。おそらくこいつがリーダーなのだろう。
「それは、アンタらが僕らに何をするかによる!」
「なるほど、あくまでも専守防衛か。気に入った。なら、少し付き合え!我らのボスが会いたがっている。」
促されるままに、僕と柚は大きな車に乗せられてしまった。
これから一体どこへ向かうのか。
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