第51話 「神気」会得への道 修行開始

 「俺は・・・

 ラファウ、試験は終わったのか?」

 現実に戻ったことに気づけないいた一瞬のタイムラグの後、ラファウに尋ねる。


 「・・・レベル9、無事クリアです。

 正直恐れ入りました。一角の人物だとは思っていましたが、ここまでとは。


 私は天使として、天界から様々な世界の盛衰を、神々の在りようの変質を、システムの功罪を見て参りました。それこそ人種には記録に留めて置けぬ程の永きに渡って。

 私は見てきたからこそ思うところがあり、トール様に希望を託す部分があるわけです。

 要は単なる他力本願ではなく、私の知見を存分に活かすという、言わば経験に裏打ちされた勝算が少なからず含まれた考え方で行動している部分がある。


 トール様にも前世の経験がありますから、それを基礎にして言動が構築される部分もあるでしょう。

 でもね。

 貴方が成し遂げたことは、表現が浮かばないほどの偉業ですよ。

 「神気」の本質、その深奥を覗いてなお、情動に掻き乱されることもなく、反対に心が冷え切って判断力が鈍ることも無かった。

 人の理を超えた先の世界のあらゆる情報に晒された筈なのに、心を失わずあるがままでいる。喚きも呻きもせず、己とも誰とも争わず、全てを抱き留めるかのような包容力さえ見せて。真正面から世界の猥雑さを引き受けて論理的に分析して己の器に収め切るなんて人の器では考えられないことなんです。

 最早、新たな地平を開く使命を帯びているとしか思えない。もともと「神」レベルの魂として生まれてきたとしか思えません。

 いえ、きっとそうなのでしょう。」

 ラファウさんの大絶賛がむず痒い。


 俺としては、前世から今に至る短くも濃い経験が今の考えに至らせたと思っている。

 大きくは前世の社畜生活だろうな。

 システムへの嫌悪。

 二度とに俺の、俺の家族の、平和に生きる善良な人々の人生を搾取させないという思い。

 そんなに特別って思って無いんだけどな。

 考え方も存在そのものも。

 「お褒めいただき光栄だけどさラファウ。

 で、具体的にはこの後どうしたら良いんだい?」

 ラファウに尋ねる。


 「今、ご自分の状態は試験開始前と比べて違いがありますか?」

 ラファウに尋ね返される。


 違い?

 そう思って自分の両手に何気なく目を落とした。少し目を凝らして見てみる。

 ん?

 金色に光っている・・・

 これって・・・


 「私が「新たな地平を開く使命を帯びているとしか思えない。もともと「神」レベルの魂として生まれてきたとしか思えません。」と申し上げたのは、こういうことです。

 試験の後は「会得」が次の目標です。

 過去、神ならざる者が神の座に登った時は全てそこから始めています。

 それを「会得」じゃなくて、正しく使いこなすための「修行」から始めるなんて。

 トール様は最終試験完了時には「神気」に目覚めていらっしゃいました。

 そう。まるで朝の微睡から目覚めるように。

 全くをもって頼もしい。


 そして、さらにトール様は我々の側に近づかれました。

 存在の格が上がって「半神人デミゴッド」になりました。

 最早、「魔物の王」など本当の意味で敵ではありません。

 私が顕現した時に呟いたことが、こんなにも早く現実になるなんて信じられない。

 永く天使として時を過ごして来ていますが、前例がありませんよ。

 ・・・それほど「変化」が必要という事なのでしょうか。」

 ラファウさんが最後に若干謎の呟きをしましたが、基本手放しで褒めてくれている。

 

 ・・・ぉお。

 自分でもびっくりだ。

 仙人ってのもびっくりしたけど、「半神人」

って。

 名前に半分「神」様入ってんじゃん。


 「存在として扱えるエネルギー値は、現時点ではレベル6相当までとお考えください。それより上は、恐らくコントロールできずに「呑まれる」ことになります。」

 ラファウさんの補足説明。

 

 すかさず質問。だって剣呑な単語だもの。

 「ラファウ、「呑まれる」とは?」

 

 「扱う力が暴走し、引き込まれて、文字通り「呑み込まれ」ます。

 意思なき力の一部となり、そうですね、トール様の知識で言えば巨大な「ブラックホール」と化します。無数の銀河を飲み込み、一つの宇宙の存続を危ぶませる程の。」

 ラファウさんが答えてくれる。

 ・・・っておい。

 洒落にならん規模だな。


 「っていう顔をされてますからお教えします。私がリミッターをかけますからご安心ください。」

 とラファウさん。

 だよねー。

 俺も「やりすぎちゃった。」テヘペロ♡で宇宙規模の破壊はやらかしたくない。


 「「仙人種」で扱えるのが「星」の規模でのエネルギーでした。

 が会得した「神気」とは、世界を創造し、破壊しうる力。時空の理に干渉し、時を、距離を、物質的な制約を超えてあらゆる「力」の根源となる理そのもの。

 ただし、己の理解が足りなければ、歪んだ理に縛られる事にもなる諸刃の剣。

 平たく言うと、万能感に酔いしれて調子に乗ると自爆して終わっちゃうよって事です。」

 めっちゃ分かりやすー。

 その言い方完璧。

 なるほど、俺が前世の知識が故に「神気」会得が予想外に容易い感じになったけど、当たり前に使う存在の側の理解が足りなければ正しく使いこなせないのは道理だ。

 「仙気」との相性が良かっただけに気をつけ無いとな。


 「まずは一つずつ、レベルを上げていきましょう。トール様の人外のバランス感覚というか調整力ならそうそうやらかしませんよ。」

 ラファウさんのフォローが雑だけど、信頼の証って事にしときましょ。


 「まずは正しいスケールを身につけていただきます。

 私が案内したレベルごとの「世界」のイメージ。試しに、同じように私を連れて行ってみてください。

 ああ、いきなりやりますが、これはトール様いけると思いますよ。

 「神気」の出力調整を感覚的に覚えるという面もありますが、ご自分がどれ程の力を扱えるのか、他人の力を借りずに理解する必要がありますから、ちょうど良い鍛錬です。

 味わった感覚を再現するイメージが正しい。サポートしますから、できるだけ具体的にイメージして、そこに視点を合わせて、凝視するように。

 そう、トール様に分かりやすく言えば、自らが光学機器になったイメージで、ズームを合わせるように。同じ視点で映像を見ている者を意識して、存在として引き連れて行くように。」

 ラファウさんがこれまでになく丁寧だ。

 正しく把握出来ないと危ないから当然か。


 「もう一度カムイランケ大師匠とかレベル1クリア組を連れて行っても大丈夫か?ラファウがサポートしてくれるなら、ラファウ以外の誰かと連携する感覚も磨いておきたい。」

 俺は提案してみる。


 「クリアできている範囲なら良いでしょう。私もサポートします。」

 ラファウさんからも許可が出た。


 よし。

 「神気」初運用、いっちょやってみますか!

 

 


 

 

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